定期的に見回りをしているシャルルカンがその「不思議なもの」を見つけたのは偶然である。実際見つけたのはシャルルカンではなく、部下の人間でありまたその部下はシンドリア国民から渡されたのだという。
曰く、浜辺の岩にぶつかっていたにも関わらず傷一つなく、海から流れてきたにもかかわらずその金細工は全くといっていいほど錆びていないので不思議に思ったのだという。シンドリアではあまり見かけないオイルランプではあるが、純金にいくつかの宝石が散りばめられている。
「錆びてねえ、ってのは変な話だな」
こん、と軽く小突いてみるが特別何か変わった雰囲気でもなく、片手で持ち上げてみてもそこまで重たいわけでもない。中身も空っぽの、至って普通のオイルランプである。シャルルカンはこれをどうしたものか、部下に下賜するわけにもいかずぶらぶらと宮内をぐるぐる回っていた。こういう時に恐らくヤムライハあたりがいたら物品自体を押し付けた何なのか調べさせることも出来たのだが、彼女は目下今アラジンと町に降りており、見つけることは困難である。
蓋に引っかかっている鎖が光に反射してきらきらと輝いているし、王への献上品の一つに紛れていてもきっと誰も何も言わないぐらいには品が良い。
「シャルルカン」
「あー、ジャーファルさん」
「何を黄昏れてるんですか」
「いや、変なの貰っちゃって」
この国屈指の政務官は首を傾げて「はあ」と曖昧な返事をしながらすっぽりとシャルルカンが手に収まっているランプに視線を注ぐ。
不思議と触れたくなり、そろりと手をのばすとそのままシャルルカンは彼に差し出した。
受け取ってみれば、意外に軽い。
ぱちぱちとほんの少し光を持っているようで、その宝石の反射で光っている部分をジャーファルはこすりあげる。
「え」
「わ、なんだこりゃ」
「シャルルカン、なんですかこれは!」
「知らねえッスよぉ」
もくもくと真っ白な煙をたて、カタカタとジャーファルの手の中で揺れる。鍋の中に放り込んだ水のようにぐつぐつと音を立てるのでそのランプに思わずジャーファルとシャルルカンは戦闘態勢を取りつつ一定距離を保った。
やがて、音はぴたりと止んだが……まるでシーシャのようなヴァニラの香りが鼻孔をくすぐる。何が起きているのか判断しづらく、煙幕を一定位置に作り上げ――煙が晴れると思った瞬間に、シャルルカンは煙の向こうに人がいるのを確認する。ゆらりとゆれる人影は女の身体をしているが、人の気配というには些か変わったものでシャラシャラと音を立てるそれは金属のものであることがなんとなしに耳で分かるぐらいだ。
ヴァニラの香りがゆっくりと落ちていく。ジャスミンのような清々しさにもどこか似ていた。
「ハァイ!お呼び出し有難うございますマスター、はじめまして!」
その場には全く似つかわしくない、妙ちきりんに明朗快活な張り切った女の声が廊下に響き渡る。
女は、人というには異形な形をしており肌の色が人のそれとは違う。エリオハプトの色黒さとも、黄牙族や煌国のような黄色でもない。
「……貴女はどちら様ですか?」
幸い、思考回路が回復してきたジャーファルが値踏みをするように―というよりかは侵入者か判断するように笑顔の裏にギラついた瞳で彼女を見据える。シャルルカンも釣られて間者か否かを図りながら戦闘態勢にいつでも立てるように距離を置いた。
女に脚はない。ふよふよとランプとつながっている煙が形を作っており、じゃらじゃらと首周り、耳、指先には黄金の装飾品がついている。一言で言うならば、「派手」だ。
エリオハプトとシンドリア、そしてバルバットの文化を混在させたような印象を受ける。彼女の身体は「人のものではない色」で作り上げられている。まるでジンのように。……そう、彼女の姿は「ジン」によく似ていた。
女は彼らの空気などとっくに察知しているであろうに、相も変わらずぐるぐると周囲を見渡して、楽しそうに笑っていた。
「私は。私を呼んだのはどっち?」
「……呼んだ?」
「私はランプの魔人だもの。呼びかけられれば応えるわよ」
この世界も何年ぶりだか分からないけれど。彼女はそう言いながらジャーファルの姿を顔を近づけその目に映しこんだ。
次に、全く同じ事をシャルルカンにも行う。んー、だの少しのうめき声のあと、ジャーファルを指差して「君がマスターね!」とにこやかに言い放つ。
「さぁ、願い事をどうぞ、マスター!」
「……は?」
今日一番、最もジャーファルが間抜けな声を上げた瞬間である。
これが異界のランプの魔人・とのシンドリアで起こる痛快だがまったりとして、少し不思議な日々のはじまり。
取り敢えず目下言葉にならない状態で機械のようにシャルルカンを見ているジャーファルをどうしたものかと首を傾げるしかシャルルカンには今現在、できそうになかった。
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