その異形の生命体は、「スタンド」なのだという。
曰く、超能力が具現化されたようなものだと、彼は言った。
・の日常はいつもと変わりない。朝、目覚める。顔を洗う、着替える、けだるい身体を引きずりおろしながら、食堂へ。
エスプレッソマシーンからのコーヒーを受取、バッフェになっている食糧を淡々と受け継ぎ、そして食べ始める。
向かい側にある席に腰掛ける老婦人はパンにコーヒー、加えて林檎を毎朝食べているようだ。今日もいつもと変わらぬメニューで頬張っている。
も同様に、コーヒーとハム、パン、そしてオレンジを手にとった。
今日の天気は曇り時々晴れといったところだろうか。晴天とまではいかない雲がネアポリスを包むものの、青空は見え隠れしている。
彼女の身体が切り刻まれてから数カ月たった今でも、・の日常は以前と大きく変わっていない。違ったことといえば命の恩人であるブローノ・ブチャラティと名乗った青年にこの謎の生命体「スタンド」についての説明を受けて、抗争の延長線上で巻き込まれた一般市民ながらその力を開花させたのだということ。
「何、ネアポリスまた負けたの?!ふざけんじゃあないわよ!さっさとあのクソ監督クビにすることね!」
「そうは言ってくれるなよヤジはもう昨日の試合で散々吐いてきた」
不機嫌を露骨にしているカップルの話を右耳から左耳に通り抜かせ、パンをちぎり頬張る。焼き立てのパンはやはりうまいもので、毎朝食べている食事にはパンは欠かせないな、とのんきにも思ってしまう。勿論、カップルの話にあるネアポリスの連敗記録更新には腹が立ったが、腹は減っているので食事が優先だ。
「おおい、、ブチャラティが来てるぞ」
「ブチャラティが?」
・の生活が代わったといえば、今現在ホテルで生活をしているということぐらいだろうか。
朝食つきではあるが夕食は自炊をしているし、掃除をスタッフが行う以外は至っていつもと変わらない。
ホテル代はブローノ・ブチャラティがいいからと押し付けてきたので、それに甘えている。ブローノ・ブチャラティはロビーで座って待っているのだという。は朝ごはんがまだだから来るように伝言を伝えると、朝食のヨーグルトに手を付けた。
「随分ゆっくりとした朝食だな」
「今日は学校もバイトもないしね。そっちは随分と早いけど、仕事?」
ブローノ・ブチャラティが何の仕事をしているのか、は知らない。
知っているのはネアポリスの町の便利屋みたいなもので、ついでにいえばパッショーネというギャングであるということぐらいだ。町の人間に慕われているのも知っているが、同時に畏怖の対象でもある。
は彼が町中の人々に威圧感を醸し出し、恫喝に近いことをしているのを見たことがある。……だが、それでもブローノ・ブチャラティはの識るギャングの中でもひときわ「ギャングらしかぬ男」であると認識している。
「いいや、今日は休みだ」
「休みなのに様子を見に来るなんて、ワーカーホリックの気があるかもよ?だいじょぶ?」
「あいにくと、人を放っておけない性分でな」
「おせっかいとお人よしは紙一重ってよく言うけど、その典型だね」
フルーツの最後の一切れを食べ終えてはコーヒーに手を付ける。
立っていたブローノ・ブチャラティは腰を下ろし、彼女の会話を続けた。
スマートな行動が得意分野であるイタリアーノらしいといえばイタリアーノらしい。
「それで、今日はお互いが偶然にも休みなわけだが」
「仕事以外のご予定は?」
「ないな」
「皆に頼られるブチャラティにしては珍しい」
率直な感想を述べると、ブチャラティは苦笑を混じらせた笑顔を浮かべる。あまり笑うことが少ないブチャラティの笑い方は大体そういった苦笑だとか、ほんの少しの微笑みばかりだ。
20歳そこそこ。そう年齢も変わらない彼が笑わなくなった理由だとか、ギャングになった経緯だとかはは知らない。知りたくても多分、彼は教えてはくれないだろう。は「巻き込まれた一般市民」なのだから。
名前を呼べば出てくるような異形の超能力そのもの。スタンド。彼らを駆使するのが最近のギャングのあり方なのだとも小耳に挟んだ。
はそこで考えてみる。私もギャングになるべきなのだろうかと。……答えはノン、だ。
「何だ?」
「別に?」
少なからず、ブローノ・ブチャラティを憎まず、嫌いでもなく、友愛のようなものを抱いているのは事実なわけだが……それが淡い恋情なのかと聞かれれば至極微妙なところである。吊り橋効果、のようなものだろうか。危険な立ち位置であるを救ってくれているのだから、やはり彼はお人好しなのだ。
「……今日はネアポリスも負けたし、天気はいいのに気分最悪」
「ああ、奇遇だな、オレもだ」
それもこれも、結局ネアポリスが負けたせいだ。
本屋で売っているジャンプの展開がどうなろうと、テレビのアニメーションでキャプテン翼が技を披露しても、の気持ちは晴れない。
「図書館にでもいけばいいじゃないか」
「……このテンションで?」
それなら少し電車を乗り継いでフィヨルドにでも。
ブチャラティの提案はどれもこれも突拍子もない。苦笑まじりに「おとなしく教会かなぁ」と上げれば彼は両肩を落とした。
「ジョルノはよく調べ物に行っているようだがな」
「それは彼が変わり者でついでにいえば勉強家だからじゃないのー、私とは違うの」
ジョルノ・ジョバァーナは学友……とまでは行かないが・の知り合いの一人である。元々一人を好み、女生徒の熱視線をあっさりとかわしてるジョルノ・ジョバァーナに対してはは苦手意識に近いものを抱いていた。
何の因果か、それがこうしてギャングという余り人に誇って言えない男をつないで顔を知るのだから面白いものだ。ジョルノ・ジョバァーナはギャングスターに憧れているのだと以前語り、それはには全くと言っていいほど分からない。
「」
心配そうにブチャラティが顔を覗きこんでいたので慌てて「ごめんなんでも」と首を横に振った。
「あまりいいことは続かないってことよねえ」
「?」
「顔がよくても、ギャングなのは良くない。彼氏にしたら大変だものね」
「それはまぁそうだな。ギャングと何かと関わり合いになるもんじゃあない」
貴方がそれを言うの、ブローノ・ブチャラティ。
苦笑したにお互い様だとブチャラティは肩を落とした。
「さて、スケジュールは決まったか?」
「服買って本屋寄って帰りにカフェかな」
「さっきと随分言ってることが違うんだが、気のせいか?」
女ってのは気まぐれなもんだ。
呆れたような言い方をするブローノ・ブチャラティに・は本日のスケジュールを浮足立ったテンションで語る。
どうやら、ブローノ・ブチャラティが巻き込まれることは確定事項のようである。だが、悪い気はしないのか、彼はにこやかに笑うに付き合うように耳を傾けた。
2013.09.14
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