これをお持ちくなんしょ。
押し付けられたスペンサー銃にはぐっと下唇を噛み締めた。目の前の断髪し、男装をした女の姿に涙が出てきそうだ。
それを無理やり、どうにかこうにか引っ込めて深く、深く頷いて受け取った。
見かけよりもずっと重たいスペンサー銃は彼女の【覚悟】を悟る。女の目はを見て少し、どんな顔をしたらいいのか困っているようだったが、すでに彼女は顔をあげていた。
凛とした佇まいに、気圧されるほどの迫力を彼女は兼ね揃えていて、瞳は炎のようだ。
「――どうか、ご武運を」
彼女はそうして、戦場の中を突き抜けていく。
彼女について、砲術師範である山本権八の娘だと紹介され、は納得した。
意を決し突っ込んでいくところは、実に似ている。山本権八がどんな人柄であったのかはは知らぬし存ぜぬし、深く関心があるわけでもない。
だが、きっと、おそらくは似ているのだ。
彼女の中に「彼」を見た。籠城し戦うと決めた以上は、と彼女は震える手をぎゅっと握りしめる。
この女は弟を喪い、父を失ったと聞く。
それでも、強く生きている。己の意思で。
会津、鶴ケ城。女500人による立てこもり。その筆頭が今スペンサー銃を渡した女だ。
「――あの御方は強い」
心が、強い。じっと見据えて――己の銃を抑え、自身の未熟さを改めて痛感する。
「怖いが?」
「……怖いです」
「んだな」
だが、生きていくのであれば、そう決めたのであれば、前を向くしかない。女は言う。
それに応じても深く、一度、頷いた。
は彼女に渡されたスペンサー銃で人を撃った。彼女は、その砲術と刀で人を斬り、殺し、撃った。
なぜだ、とは己の立ち位置を振り返り考える。その答えはなく――彼女は、会津に渡り、戦いを続けている。
1日が終わり、兵が引いていく。
その姿を見送った後、人々は亡骸を一つにまとめ、移動させていく。
彼女――もまた、その仕事を手伝っていた。
行き交う人々がを少し見て、そうしてまた自身の仕事に戻っていく。そんな折、彼女を呼び止める声が響く。彼女が振り返ると、先程スペンサー銃を持って、多分この籠城戦で誰よりも動きまわっていた女が立っていた。肉を切ったような生臭さと血潮の香りに吐き出しそうな感覚を覚えるが、女は「顔色が良くねえ」との恐怖心を見据えたように言う。
は、知ってか知らずしてかひ、と声を上げ―――そして嗚咽を上げながら涙した。
「う、うう、ううう、うええ……」
「泣ぐでねぇ、泣いていい資格は、私らはねぇ。何より、今はそげなことしてる暇もねぇ」
ぼたぼたと落ちる胃液と涙と、そういったたぐいのものを、あっさりと彼女は突き放すように言う。
硝煙。断末魔。血の臭い。
どれもにとっては理解し難いものであったし受け止めたくない現実でもあった。
だが、女は言う。
泣く資格なんてものはないのだと。
……は鳩尾をいささか乱暴に自分で殴りつけた。無理やり止めるために。
ぐっと顔を上げると、女は笑う。歪な笑い方ではあったが――とても美しい、とは思った。
そんな籠城戦の中で、屍に両手を合わせる。味方も、敵も、どちらでもない。ただひたすら彼女は胸の中で渦巻く自己嫌悪と罪悪感から彼らに手を合わせるのだ。
この日々がどのくらい続くのだろう。
これを「会津戦争」だと、戊辰戦争の1つであると銘されたのはもっとずっと後で、が殺した人間の数は籠城戦を続けている間にわからなくなってしまっていた。
