オレンジ・グッディ

「こんばんはー」

 インターホンを鳴らして横山家には一人の少年がグルグルとマフラーをしてやってきた。 横山母は彼を見ると笑っていらっしゃいといい、彼の目的の人物を呼び出した。 目的の人物はいつもと大差なくちょっと眠たそうな瞳を擦って眉間に皺を寄せていた。
「ホントに来たんだ、……」

「ったりめーだろ!」

 早く行こうぜ!と少年基は白い歯をにっと平馬に見せると横山母にお辞儀して行って来ますとさっさと出て行った。 残された平馬ははぁと溜息をつくものの隣でくすくすと笑う母が居るので家に引きこもることも出来ず、渋々といった形で靴を履いて外へと出て行った。

「……寒っ……俺家戻って良い?」
「今出たばっかじゃねーか!」

 鼻が寒さで少し赤くなっているは家の前でウダウダ言う平馬のマフラーを引っ張りつつズンズンと突き進んでいく。 平馬はその真逆で至って真面目な顔をしている分真剣なのか冗談なのか伝わりづらい。 今だって非常に寒いとに訴えているものの顔がそんなに寒い!と叫ぶようじゃないので笑って流されている。 


「蹴球神社いきてーなー」
「京都?」
「そ」

 オレンジ色のマフラーをぐるぐると巻いてケラケラと笑うに平馬も何だかんだで一緒に歩いている。北風がびゅうびゅうと何度か彼等を攫うように吹き荒れるたび寒いー!というの叫び声が平馬の耳へ貫通する。

 神社へと向かう途中の坂道で出店が並んでいて思わず豚汁を二人そろって購入し音を立てて食べる中ゴーン、ゴーンと鐘がなり、気づけば一年を超えていることを知らせていた。

「げ、新年だよもー。平馬、あけおめ」
「おめでとう」
「神社行ったら御籤だよな、御籤!」


 テンション高く豚汁を食べるに肉嫌いなので豚汁の豚を箸で摘んでの器に移す平馬。 やけに異様なコンビではあるが彼等が新年を共に過ごすのは別に今年だけに限ったことではなくジュニアユースよりも以前、小学校サッカークラブの時点から、こうして二人、あるいは家族そろってということが普通だった。 だからこそ余計に今年もいつもと変わらない、それだけだった。


「平馬、お前今年の目標は?」
「ユースにあがる」
「はは、待ってるぜ」


 唯、ほんの少しの距離が二人には出来た。 ジュニアと、ユース。 ジュニアからユースに上がれるのはほんの一握り。
 が上がれたのは偶然ではなく力の差だ。 は平馬を待つことなく顔を上げて立ち上がり先に歩いていく。 

 そこにあるのは本当にほんの少しの差なのだろう。
 だからこそ平馬はに追いつこうとして、を追いかける。


「げ、俺5円玉持ってないや」
「両替しようか?」
「頼むー」

 くだらない会話。
 日常的な会話が続く中でと平馬の距離が縮むように、平馬はもがく。
は其れを黙って見据える。

 手を伸ばして、救い出したら平馬は此処で折れてしまうから、と鬼のようだと人にののしられても真っ直ぐ、真っ直ぐ。

 彼はじいっと我慢して見据えている。 唯、平馬自身が這い上がってくるのを待つように。

 境内を前に二人は同時に手を叩いて神に何かを呟いた。 其々が何を呟いたのかは其々にしか解らない。 だが、実際彼等は楽しげに、笑っておみくじを引いていた。



「よっしゃ大吉!平馬は?」
「……」
「んだよ大吉じゃん!」
「二人とも大吉なんて気持ち悪……」

 ほっとけ、とが叫ぶのを耳にしながら平馬は小さく笑った。


 2003.12.某日