
自慢ではないが、はくじ運が悪い。
何故こんなにもくじ運が悪いのかと言われるほどには悪い。恐らくパラメーターを作ったら幸運はEマイナスレベルだろう。
「お前って本当くじ運悪いな……」
呆れて見つめてくる日向龍也の瞳に、思わずは視線を逸らした。
ブラックジャックをはじめて早二時間強。彼女の手札は常に何枚捲っても一桁しか出てこない。
数字を足しても21に行き着くことも出来ず、よって駆け引きすらできていない。
「いやなんていうか……本当にウソ付けないタイプなんだな」
「ウソっていうか……はー……」
「まぁ、元気だせ。コーヒー奢ってやるから」
憐憫の情からか、頭を何度か叩けばは何度目か分からぬ溜息をこぼす。勝負運がまるでない不運Aプラス、もしくはEXの彼女がブラックジャックをここまで強行しているのにはいささか理由があるのだが、目の前の相手は特に意識をすることもなくカードを切っては淡々と親としての作業をこなしている。
時折書類を持ってくる人間に対して目を通して判子を淡々と押していく作業が入るが、おおまかな流れはと変わらずカードゲーム真っ最中である。
「そういえば、舞台この前見に行ったぞ」
「えっ」
いつの間に。
彼女は驚きカードを危うく落としかけた。ハートの5がちらりと龍也の目を過ぎったが、敢えて見なかったことこにしよう。
ST☆RISHが何かと最近は世間を湧かせているが考えてみればシャイニング事務所の中の部門の中には彼女のような人間もいる。
舞台と、テレビドラマは違う。舞台稽古の教師陣として仕事をしているを何度か彼は見かけたが、アイドルというよりも求めているのは「舞台俳優」だ。脚本家と何かを話しているのを度々見かける。
「いつの間に。招待券くらい出すのに」
「まぁ、二階から見てたからな。平日とはいえあれだけ入ってるのはすごいな」
称賛の声に、再びは驚いた。
手からカードが滑り落ちる。ダイヤの2。……ポーカーフェイスの下手な彼女らしいといえば彼女らしい表情で、かつ引きの悪さも相変わらずだ。そろそろ40を超えている試合数だというのに、彼女の引きはもっぱら1桁。ハートの3,クローバーの5,最高がスペードの7……流石に引きが悪すぎて相手にならないとはこのことだろう。
「あ、いやでも、日向さんも仕事お疲れ様です」
「まぁ俺は再来月の舞台のための稽古ぐらいだしなあ……事務作業しなきゃいけねえし、学校ぐらいか。お前こそ脚本やったりしてるんだろ?」
「いえ、実際は殆どプロの脚本の方に教えてもらってるばっかりで」
しみじみと、そんなくだらない話をしていると事務所のマネージャーたちが次々とぞろぞろと入ってきて龍也との存在に気づくと声をかけてくる。
マスターコースのアイドルたちの台本を取りに来た人間もいれば、後輩たちのスケジュールを確認しにきた人間等バラバラだ。人によっては三人グループのマネージャー故に大忙しと何かと人につけて違いせいか、は思わず手札を机に置いて「手伝いますよ」とかけ出していってしまった。
「」
「なんですか?」
「マネージャーカンファレンスが8時からだから、俺らは飯行くぞ」
「……あー、今日定例会でしたね」
マネージャーと社長による定例会には所属タレントたちは参加できない。あくまでも「マネージャー」としての仕事内容である手前、知らされない。事務所で作業の多い幹部の日向龍也であっても、だ。
は自分のバッグを取ると、己の担当もしているマネージャーがいたのか随分と崩れた笑顔で「後よろしくお願いします」と頭を下げ龍也に言われるままに部屋を出ていく。机の上に置かれたブラックジャック。
……そこにあった数は、漸く親である日向龍也の桁を超えて、ぴったり21になっていたのだが――流石不運EXというべきだろうか。試合放棄に伴い、無効。
「イタメシでいいか、妥当に」
「定例会って2時間くらいかかりますよね、そのままご飯食べたら私帰ることにします」
「そーしろそーしろ、明日の授業の用意もあるしな」
グダグダと話をしながら歩く彼らとすれ違う人間が振り返る。
片やテレビによく出る芸能人。もう片方は同業者だが……テレビ俳優ではないためだろうか、通り過ぎた女性がショックを隠しきれいない表情を浮かべている。
別段恋愛関係ではないのだが、矢張り見た目的にはそう見えるのだろう。小さな悲鳴が後ろから聞こえてきた。
龍也が顔をしかめると、は困ったように「あははは……」と乾いた笑みを浮かべた。
後、ゆったりと夕食を取っていると仕事帰りの月宮林檎が頬を膨らませて何やら怒りながらやってきたので、三人で明日の授業の話題をしながら食事を摂ることになったのである。
2012.06.10