「テストがやばい、本当にやばい」
「……で、なんで俺に電話かけてくるの」

 孤島にある星月学園にいる東月錫也に一本の電話がかかってきたのは夕食も食べ終え課題をこなしていた午後八時半のことだ。
 見覚えのある電話番号に通話ボタンを押したのが最後、怒涛の勢いで流れこんで来た情報に思わずこめかみを押さえる。嫌な予感は見事に的中した。
 電話の向こうのという人間は幼馴染の月子、哉太と同様の長い付き合いの一人だ。志望校の違いにより音沙汰が暫くなかったが、理系の三人と比べ彼女は文系の人間だ。
 泣きついてきた理由を要約すると地学のテストの成績が今までにないくらいに悪かったから助けてくれ、ということらしい。
 錫也は呆れながら「それで」と付け加えると電話の向こうから地球はともかく宇宙のことなんか知らないよーだの何だの悲鳴が聞こえてくる。相手にしないようにしつつ試験の内容を聞いてみると錫也もすでに授業で行ったところだ。

「いいなあ、そっち」
「言っておくけどは絶対無理だからな、授業ついてこれないだろうし」

 文系には絶対無理。
 きっぱりと言い切った錫也にが電話越しから「でも月子いるなら会いたいよー」と文句が聞こえてくる。
 それを全て無視して、試験の内容について何が分からないのか聞いてみるとの声がワントーン落ちた。
 暫く続く無言に錫也は諦めて溜息をつくと「一度電話切って、パソコンでテレビ電話あるからそっちにしよう」と言い切り彼女の意見をきっぱりと無視し電話を切った。
 次にパソコンを立ち上げ、テレビ電話につなげると回線をつないでがログインしてくる。
 画面の向こうの彼女は暫く見なくても全く変わっておらず、家なのかゆったりとした格好をしてくるくるとボールペンを回していた。


「それで、どこ、わかんないの」
「うう、天文学全面」
「それじゃあ意味ないだろ」

 ちゃんと説明するから。
 丁寧に言う錫也には思い切りため息を付いた後に顔を上げた。
 そして、画面いっぱいに彼女のノートが突き出されて、羅列された文章を錫也が追う。
 彼女の言葉の節々を掬い上げ、錫也はが意味が分からない、順番がわからない、ということを突き止めると「ああ、確かに……」とがっくり彼女は項垂れた。

「気にしすぎだろ、は文系なんだから当たり前だって」
「そんなこと言われてもー……なんか落ち込む、はぁ」

 溜息をつくに苦笑をすると、ふと窓の向こうに見える月がいつもよりも鮮明にはっきりと見えて錫也はぼうっとそちらを見つめた。
 視線の先に何があるのか気になったのだろう、も錫也が見る方角に顔を向ける。
 当たり前なのだが、距離がある以上、の部屋から見える月は錫也の見る月とは異なって見える。

「月が綺麗だ」
「……錫也、それ」

 絶対文系の前で言わないほうがいいよ。
 彼女のツッコミに首を傾げた錫也に、は苦笑いを浮かべて「気になるなら調べたら?」と視線をノートに戻し、がりがりと何かを書いている。 
 錫也は文系ではない。の知る世界と、錫也の知る世界は同じで違う。



「何?」
「夏休みにさ、会える?」
「……なんで?」

 会いたいから。
 さらりと言い放った錫也に、は唖然としながら顔を上げて、首を傾げる。
 なんで、ともう一度聞くと錫也は矢張りいつものように笑うばかりだ。

「文系なんだから、行間を読まなきゃダメだろ?」
「……理系なんだから、もうちょっと根拠とか、理詰めで言ってよ」

 錫也がの言葉に小さく、また笑った。
 は顔が暑くなるのを感じたが、まさか、と頭を振り、「言いたいことは結論から言うのが理系の特徴でしょ?」とまるで茶化すように言う。
 もしかして。
 もしかしたら。

 そんな淡い期待を抱きながら次の言葉を待つ。
 錫也の柔らかい物言いに思い切りが顔を再び赤らめながら「分かった」と笑って言い返すまで、後1分25秒。