彼女が彼を知ったのは難民としてシンドバッド王に連れて来られてきた日のことである。自分を含めるたくさんの難民たちを目に、彼は顔色が悪く王に反論していた。真っ白な髪の色は何にも染まっていない証にも見えて、羨ましくもある。
彼の目に、が体を竦ませたのは何故かは分からない。本能的な何かが彼を避けたのかもしれない。一方で何故かわからない程に胸が高鳴って、顔が熱い。シンドリアの太陽に照らされたみたいに、口の中にある水分が抜け切ったようだ。シンドバッドはの表情に気づいて彼女の背中を叩いて心配するなと笑う。
「あの、王様」
「なんだい?」
あの人を怒らせてしまったのでしょうか。
言葉にするだけで瞼の裏が熱を帯びる。心がざわめきたつのを止められない。手先が震えているのがわかる。けれど、理由はさっぱりと言っていいほど、には分からなかった。一応ない頭なりに考えて、辿り着いた答えとしては行き場のない難民である自分がシンドリア民になれるか、というところぐらいだ。けれど、その不安は胸をチリチリ痛めてはいるが、熱くなる理由にはならない。
シンドバッドに言葉を伝えると彼女の珍説に目を細めて彼はわしわしと頭を撫でた。
「そうか、はあいつが気になったか」
「わかりません」
「それはな、恋だ」
君は、ジャーファルを見て恋に落ちたんだよ。
シンドバッドの言葉は優しかった。そして、恋に落ちるという響きはの胸をじんわりと温め、心の穴を不可思議なほどに埋めて導けない答えを弾き出してくれている。
「あの、王様」
どうしたらいいんでしょう。の困惑した表情に、シンドバッドはさあ、とだけ返してやる。は高鳴る胸を抑えてため息をついた。考えれば考えるほど胸は熱くなるし顔も熱い。
焼け爛れてしまいそうな錯覚を覚えるほどに、熱い。
「彼の名は、ジャーファルという。この国の政務官だ」
「ジャーファルさま…」
ゆっくり、心に浸透して行く。
その日は「政務官ジャーファル」の瞳に魅入られ、恋に落ちる。彼女の歯がゆくもガムシャラな初恋が実るか否かは、マギすらも知らない遠くて近い未来の話。
2012.10.23
SSログから加筆修正