「あのねえ、聞いてるの、」
「ごめんなさい、あんまり聞いてなかった」
「もう!」
不機嫌になったトリッシュは皿の上に盛られたティラミスを切って自分の口の中に放り込んでいる。
最近何かと付き合うことが増えたトリッシュに、は首をかしげて「どういう考えがあるのか」と不思議に思っている。
いわゆるとトリッシュの関係は恋敵といわれるもので、しかもその相手ときたら鈍感だ。
イタリア男性という割に、ナンパはしたところで結局すべてさらりと受け流してしまう。ブチャラティ、と慕われている男のことをトリッシュが観念してその感情を名付けるには些か時間が経過していたようにも感じたが――……それでも彼女は受け入れたのだ。
にとってみれば少しばかりそれが羨ましい。ブローノ・ブチャラティという人間に関してはまだ未だに彼女にとって把握しきれていないのだ。トリッシュと比べてみれば知り合いである時間は長いものの、彼と自分の間には見えない壁というか何というか、不可思議なものに隔てられている気がした。
「だからね」
「うん」
「どんなにアピールしてもあの人ったら気づかないのよ!」
「ああ・・・」
ブローノ・ブチャラティという人間らしいといえば実にらしい反応である。ナランチャにすらバレてるのにこんなのってないじゃないの。
頬杖をついて不機嫌になったトリッシュには苦笑を浮かべた。彼女は喜怒哀楽コロコロと表情を変える。その姿は15歳のどこにでもいる女の子で、変わらない。
「ねえ、いっそ告白をしてみるっていうのは?」
「ダメダメ!それはがもう一度やったんでしょう?」
「そうでした」
きゃあきゃあと言い合っていく中で、段々とは心の中に射るブローノ・ブチャラティに腹が立ってきた。
彼は顔も整っているし、街中では恐れられながらも慕われている。そして情に厚い男だ。けれど、それはそれで、これはこれだ。
目の前にこんなにも彼を想う女が、それも複数いるのに彼は全くと言っていいほどに気づかない。ジョルノが護衛にと少し離れたテーブルに座って、時折うんざりとしたような視線を此方に投げかけているのも腹が立つ。
「でも、好きになった以上どうしようもないのよねえ」
「…………そーなの!そこなのよ!!ああもう」
ふくれっ面をしてみせたトリッシュに、は笑いながら自分のベビーピンク色に施したマニキュアをちょっとだけ謎って「やってらんないわ!」とこぼす。
「」
「はいはい、はーい、今行く。ごめんねトリッシュ」
「いいのよ、Grazie」
「うん、お互いがんばろうね」
後悔だけはしないように。
手を軽く振って、ジョルノに目配せした後には外に出る。そういえば、久しくブローノ・ブチャラティの声を聞いていなかった。
トリッシュのように近くにいればいいのだけれど、あいにくは仕事がある。
欠伸を噛み殺して、彼女の前に居た男を見上げる。
「暗殺者なんてもん、なるもんじゃあないわねえ」
血だの、死臭がして嫌になる。目の前に居た男が「そうかぁ?」と退屈そうに答える。
「そうは思わないの、プロシュートは」
「慣れだな、慣れ」
「やだわぁ、そんな慣れ。香水で麻痺したほうがマシじゃないの、そんなの」
お前化粧くせーのは香水の匂いかよ。
露骨に嫌な顔をしたプロシュートには舌を出してくつくつと笑った。
(ねえ、ブローノ・ブチャラティ)
そのうちお茶でもいかが、なんてナンパのセリフを思い浮かべて自分のガラじゃなさすぎる、とプロシュートに悟られないようには口を緩める。これから仕事だというのに、いつもと違って気分がいい。多分、トリッシュのお陰だ。
恋敵というのは不仲なのが定説だが、トリッシュ・ウナは随分と見ている此方が恥ずかしくなるような、真っ直ぐな女性だ。勿論だからと言って譲るつもりも諦めるつもりも毛頭ないのだが、もし、仮に、自分がダメだった時に叶うのであれば彼女であれば少しは気分も七割くらいはいいものだ。
「罪づくりな男って、腹たつ」
「お前さっきからそればっかだな、なんだよフラれでもしたか」
「まだフラれてないから、一応」
相手にされてないってもいうんじゃねえ、なんて笑うプロシュートの足を思い切り蹴っ飛ばしては本日のターゲットのいる場所まで悠然とした態度で歩き出した。
2013.09.22