wish you were here

何が驚きかって聞かれれば、ブローノ・ブチャラティは親愛なる彼の友人のが再び失恋をしたことだ。
長い、それこそ3年の少しばかりの付き合いになるのだが、はとてつもなく男運がない。そりゃあもう、驚くくらいに。
その話をひたすらに聞かされるのが、ブチャラティが率いているチームの男たちだ。
最初はまじめに聞いていたとしても、その話にも段々と飽きがくる。3年にもなれば、もう慣れっこだ。

「男運のなさ、もう驚異的だなお前」
「……うう」
「というか、なんでいつも此処に来るんですか、あなた」

呆れながらも、フーゴが紅茶を淹れるのではおとなしくそれを飲む。目尻が赤くなったその姿に大体の男たちは「また泣いてきたのか」と呆れと、少しばかり苛立ちを感じる。
三年も関わっていれば愛着も湧くというもので、恋愛感情はなきにしろ彼らはという女子に対して少なからず「妹」だとか「友達」だとか「近所の姉ちゃん」だとかさまざまな感情を抱いていた。

「はあ、また来たんですか、あなた」
「あら、

珍しくも買い出しに一緒に揃って行ったジョルノとトリッシュの姿を見てはぼたぼたと涙をこぼした。その姿に対していたたまれない気持ちを抱かない人間がいるものならばあってみたいものだ、とぼんやりとブチャラティは思う。
ミスタがありきたりな「そんな男やめてよかったんだって」だとか、アバッキオの不器用な慰め方だとか、ナランチャの「元気だせよ」と肩を叩く姿だとか、彼らの励ます姿はまちまちだ。


「……」
「……今度はどんな男だったんだ」

は涙を拭いて、呟く。船乗りだった、と。
どこに惚れたのかは頑として言わなかったが、彼女なりの失恋の仕方はいつもそうで、どんな男に、と聞かれれば職業と外見しか言わないのだ。
具体例が、つまるところない。
一目惚れかと聞けば、そうでもないのだ。実際の関わりはある。話もする。けれど、それを彼女が語りたがらないのは――慰められている、という自覚が矢張りあるからなのかもしれない。

「おかわりです」
「……うん」
「後でタオル持ってきてあげますから、さっさと飲んでケーキでも食べてればいいんですよ」
「んじゃあ俺らがついでに買ってくるか。プリン食いてえし」

よろしく、とフーゴが言うのと同時にジョルノが「3番通りの近くに美味しそうなケーキ屋が新しく出来ているとそういえばさっきトリッシュと話してたんですけど」と雑誌をめくりながら言う。トリッシュは目を細めて「ミスタ、よろしく」と笑った。
……のテーブルには、アバッキオが黙って足を組んで見つめている。は涙を拭い、それ以上はもう泣かなかった。

「シニョリーナなら、街中で泣かないってのは鉄則だろ。化粧が崩れる」
「……うん」
「それが出来ないなら、お前はいつまでもバンビーナだってこった。男見返したかったら努力しろ」

アバッキオは紅茶を飲む。
はこくり、と頷いた。気の強い瞳が揺れるのをブチャラティは見逃さなかったが、あえて見ないふりをしてやる。イタリアーノとしては、矢張り、女が涙しているところは見たくないものだ。

、食べたいものは?」
「え」
「……泣いたら腹がへるだろう?」

ブチャラティ、それは、子供扱いしすぎ。呆れたようにトリッシュが言った。ジョルノは買い物袋を仕舞いながらのテーブルにつく。フーゴは何かを考えたようにして、を見ていた。

「…………とりあえず、ポモドーロとマルゲリータ食べたい。後ティラミスとパンナコッタ」
「なにげにこっち見ながら言いましたね、今。喧嘩売ってんのかコラ」

フーゴの言葉に、はころころと笑った。
……その姿に、ほんの少しばかり浮かばれたきがする。3年の付き合いだ。それなりに情がある。
例えば、彼らのうち誰かが明日死んだなら、チームの人間はそれもまたギャングであるがゆえと割り切っていくだろう。悔恨を抱いたまま、胸の中に押し込んで、彼らは生きる。だが、はどうか。彼女は青春時代を彼らとともにあるが、ギャングではない。…………その姿は、少し、今のトリッシュと重なった。

「……な、何、ブチャラティ」
「……いや?」
「何もないのに頭を撫でるの?」
「……さぁ」

さぁ、と首を傾げたブチャラティには苦笑しながら「バンビーナ扱いしてる証拠だよ」とぼやいた。
そんなに年齢差がないはずなのに、どうにもこの20歳は彼女やナランチャを弟妹のように扱う気があるようだ。アバッキオからすれば「お前がバンビーナだからだろ」なのだが。

「フーゴ、タオル」
「ああ、どうぞ」
、化粧してあげるからこっち来なさい、ほら、タラタラしない!」

ぴしゃりとトリッシュに言われ、はテーブルに手をつきあわててトリッシュに近づく。
彼女はいつの間にかその大きな化粧箱を持っていて、出口に立っていた。その姿を確認したフーゴやジョルノたちに、追い打ちを掛けるように「部屋入ってきたらスパイスガール叩きこむから!」という言葉が投げかけられ、ともども部屋から消えた。

「……つまり?」
「化粧するところ、見られたくないってことでしょうよ」
「それより、の奴も懲りねえな」

ごもっとも。思わず頷いてしまったフーゴが慌てて口元に手を当てて「まぁ、あの調子なら大丈夫でしょう」と笑う。
今回の恋はどんなものであったのか、結局彼らは知る由もないけれど、が笑える、理想の男と繋がっていければ、と願う。

「……おい、どうしたブチャラティ」
「いや?」

幸せだなって、思っただけだよ。彼はそうやって笑って、目を細めた。
扉をあけて、ミスタとナランチャが騒々しく帰ってくる。次の扉を開けたなら、トリッシュともきっと笑顔だろう。
……そう想像するだけで、何てことのない一日がとてつもなく―――そう、とてつもなく、穏やかで幸せだと、そうブチャラティは思い、小さく笑った。
(願わくば、や、トリッシュが何気ないことで笑えることを。)
聞こえないけれど、見えないけれど、そう確かに密かに、ブチャラティはそう願った。


2013.07.11 wish you were here:あなたがここにいてほしい