For You

一緒にいることはあれどその関係を明確に述べよと言われれば、は困惑した顔をする。この状況を他人が見た時に彼女の微妙すぎる表情を哀れに思うのか、それとも一緒にいる彼女の対象となる人間を不憫に思うのかはそれぞれで異なる。
少なからず――。彼、グード・ミスタは「あー」と苦い声をあげたし、トリッシュ・ウナはの微妙な顔に応じての「まったく」と溜息を返すばかりだった。

「そもそも滅多にないオフを使って態々呼び出しに応じたってのに、用事はそんなこと?」
「そんなことって。そんなことだけど」
「つーか女でやってろよ、んなもん」

面倒くさそうにランチのピッツァを食べるグイード・ミスタに、はそれもそうなんだけど、と零した。
彼女としては男女からどちらでもなく意見が聞きたかったのもある。方や、一応、ギャングのボスの右腕。一方は着実に腕を上げている歌手。…であり元々は前のボスの娘。もちろんこれはオフレコである。
そして、当の自分はと言えば。


「……そもそも、警察官のくせにギャングと飯食っていーのかよ」
「まぁ、うん……全然良くないね」
「よくジョルノと一緒にいてクビにならないわね」

スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合うという話を誰かがしたのを、は思い出す。自身がスタンドをうまいこと駆使しているのかは分からないが――。少なからず、数奇な運命を辿っている彼らと出会ったのは偶然ではなく運命なのであることだけは、最近分かっている。旅を一緒にしたことはない。ブローノ・ブチャラティの存在は知っていた。彼は街のヒーローのような人だったことも覚えている。……現実問題、はブチャラティがギャングの幹部であることを全く知らなかった。要するに、鈍感なのである。

……そして、現状。
本日午前中にはジョルノ・ジョバァーナがブチャラティと同じく、いや、それ以上のにギャングチーム「パッショーネ」のトップに君臨している男であると知ったばかりである。

「でも、ほら、悪い人じゃないし、多分」
「お前ギャング捕まえておいて悪いやつじゃねーとか、警察が言うことじゃねえよ」
「……まぁ、自治やってもらっちゃってるから警察やることないのも事実なんだけどね」

お気楽な。珍しく高低音がユニゾンしたので、は苦笑を浮かべた。
トリッシュは呆れながらの言葉に一言一言苦言を呈す。彼女の指摘は至極まっとうで、彼女が闇の道から光指す道へと歩んでいることは好ましいことこの上ない。聞けば、それこそがブローノ・ブチャラティの願いであったのだという。たった数日、けれど濃密な時間を彼らは過ごしていたのだろう。
彼は死んでしまったけれど、それを悲観し続けないのはトリッシュなりの弔いのようなものなのだろう。彼女の抱いていたそれは、恋心なのだろうか。聞いた所で多分、トリッシュ・ウナは教えてはくれないだろう。


「つーか、どうするんだよ、そんで」
「どうも何も」
「変わらないってぇのはナシだぞ、ここまで待たされてるこっちの身にもなれ」

さっくりとティラミスを頬張るグイード・ミスタには非難の声を上げた。人の楽しみにしている菓子を奪い取るのは窃盗罪じゃないだろうか。警察の目の前でよくそんなことできるなと銃をぶっ放したくなったのは、多分彼女が今現状も混乱しているからだ。

「ブタ箱に行くのは御免被るけどな、まぁ、裏情報流してくれるのはありがてぇだろ」
「そんなことしません」
「ケッ、真面目ちゃんが」

トリッシュが呆れて付き合いきれないと、アーモンド色のマニキュアが塗られたつめ先をいじりだした時、の耳にコツコツと靴音が聞こえてきた。気配と足音で察知するあたりも犯罪者と過ごしてからの「慣れ」みたいなものがあるのだろう。否、もしかしたら彼らが普通に徹しているからこその違和感からなるものなのかもしれない。
視線を外せば、やはりその穂波色の柔らかな髪が目立っていた。周囲にもブロンドの髪をした青年たちはいくらでもいるのに。トリッシュが「あら」と少しだけ笑ったような気がした。

「1人?ジョルノ・ジョバァーナ」
「ええ、あいにくと右腕が駆り出されてしまったもので」
「約束は随分前から取り付けておいたんだけど?」
「それは失礼しました。フーゴがミスタの書類に不満を並べていたので」

げげっ、と嫌そうな声が聞こえてきた。
だが、言った張本人をしっかりとトリッシュが捕まえている。その状況をジョルノは肩を落として見ていた。

「トリッシュ、あなたも何をしているんです。極力関わるのは控えてください」
「あら、今回の状況はの提案なのだから仕方ないでしょ」

一般人とギャングの境界線のような人間であるトリッシュはどちらでもなく、その時時で色を変える。
吹っ切れないでいるブローノ・ブチャラティのこともあるのだろう。ディアボロのこともあるのだろう。前者のことをは考えるとこの数カ月で日々というものは色を変えるものだとしみじみ痛感する。ディアボロのことは――。正直、前のボスであることしか知らないし、何よりその顔も知らない。だが、トリッシュ・ウナにとっては肉親であるということは把握している。
ぼんやりと眺めているとジョルノが言いようのない非難の目で見ているので、小さく咳払いをして「友人として二人を呼んだのだから」と言い訳を返す。

「……では僕も呼べばいいじゃないですか」

平たく言えば、彼は拗ねている。
だが、そのことには気づいていない。ミスタとトリッシュは思いがけない出来事に思わず顔を合わせて、もう一度彼らを見ている。
エスプレッソに砂糖を入れ、くるくると混ぜて素知らぬ顔をしているは母親に叱られた子どものようであり、ジョルノ・ジョバァーナといえば、仲間はずれにされたことへの不満を普段のポーカーフェイスの中からちらりと覗かせていた。

「なんていうか、お前ら似てんなぁ」
「ハァ?」

はジョルノ・ジョバァーナを好ましく思っているという。その会話の節々に時々好意が見え隠れする。それを言葉にしないのは彼女の正義が踏みとどまらせているからなのだろう。彼女は警察官だから。ギャングとの接触過多は当然、彼女の義に反する。かつて警察官からギャングになったアバッキオを思い出す。……勿論それを知っているのは、今は亡きブチャラティとほんの一部ぐらいだろうか。

顔を見合わせたジョルノ・ジョバァーナとは直ぐに首を傾げた。
そんな一連の動きがどうにもこうにも面白くてグイード・ミスタは笑う。そんなグイード・ミスタを見て、トリッシュ・ウナは呆れてみせる。
一見すれば、よくわからない組み合わせだが、そこには奇妙な関係が構成されていた。
スタンド使いはスタンド使いと引き合う運命にある。
彼らが出会ったのが運命だとするのならば、なるほど納得は十分にできることだ。

「あなたがパッショーネのボスだったとは意外だったから、意識がぶっ飛んでたわ」
「パッショーネにいたのは知っていたでしょう」
「そりゃあ、ブチャラティや、ミスタたちとそれなりに知り合いだったから」

警察との協力体制なんて、パッショーネは取りはしないだろう。警察との癒着はよろしくない。それは相互ともにだ。
だから、にとってはその日は「オフ」だからできることだ。このことは胸に秘めておく。……それが正しいのか、否かは分からない。
ネアポリスとは不可思議な場所だ。ここからソレントへ向かうことも、ここから電車に乗ることも、ここから飛行機に乗っていくこともできる。

「さて、じゃあトリッシュ。ランチの後らしく買い物にでも行かない?」
「あら、もういいの?」
「ええ。ある程度愚痴ったし、せっかくの非番だし」

伝票を取ろうとすればあっさりとミスタの手――正式には、セックス・ピストルズに奪われてしまう。
彼らはミスタの手にそれを渡すとにぃ、と笑ってみせた。

「ここは1つ、ボス持ちってことでいいだろ」
「は?」
「どうして僕が」
「お前のせいだからに決まってるだろ」

押し付けられた伝票を受け取り未だに状況を把握していないジョルノ・ジョバァーナを横目にミスタとトリッシュは何やら笑ってる。……は、視線だけを送ってみると、また目があう。
困ったように苦笑を落とせば、彼もまた同じく肩を落とした。
……彼らのそんなやり取りは、似たもの同士としかいいようがなく。間にもしも「ギャング」だの「警察」だのが挟まっていなければそこそこにいい関係を築けたのではないだろうか。……否、多分今でも築いているだろう。

少なからず、片方だけの一方通行じみた片思いではないのだけは、トリッシュの目からすれば明らかだったし、色恋沙汰に無縁のミスタからしたって、中々悪いものでもないという結論だ。
ごちそうさま、と小さく笑えばジョルノは貸しひとつで、と笑ってみせたので釣られるように、どうにか笑った。
そうしてとトリッシュは歩き出す。その後姿をぼんやりと見送った後、ミスタは視線をちらりと上に上げる。相変わらずジョルノの表情は読めない。


「……まぁ、いいんじゃねーの」
「なにが」
もあー見えて、馬鹿じゃねーってことだ。おまえもな」
「……さぁ?生憎と子供だからね」
「よく言う」

食えない笑いを浮かべたジョルノ・ジョバァーナに、少しばかりミスタはを普憫に思う。結局いいように掌で転がされているのだから。
だが彼から言わせれば、親愛の証みたいなものだという。どこがどう愛なのかミスタには分からないが、少なからず警察官であるがゆえに葛藤を抱えているがパッショーネのパーパである彼ともし男女の関係を願ったりなんかしたら。そこまで考えてミスタはあっけらかんと「しらねえ」とだけ言い残した。そんなもんは自分たちで何とかするだろう。そういう体質だ。
トリッシュはブチャラティの死後、少しずつ明るさを取り戻している。そしてそれと同時に、心のなかに彼は生きているのだろうとミスタは思った。勿論、それはミスタにとってもしかりだ。アバッキオもナランチャも、彼の胸の中にいる。それは変わらない。
そして、それもまた、ジョルノ・ジョバァーナにとっても。


「おい、お前、に惚れてんの?」
「は?」
「や、もし気を使ってるとかそーいうのだったら面倒だし、いらねえからな」


お前は仲間だし、はまぁ、悪いやつじゃないから。大丈夫だろうとは思うけど。笑ったミスタに、ジョルノは誤魔化すように踵を返しさっさと会計を済ませた。

空は快晴。ここにはいない誰かへの想いを寄せながら彼らはまた、日常の中に身を投じていく。


2012.06.25