「寒い」
「寒いねえ」
こたつの中に入って蜜柑を食べながら、は喜助に愚痴るように零した。
机の上に顎を乗せるに喜助は苦笑しながら寒いね、と同意をしつつ外の窓に目を向ける。外は雪が深々と振り続き、は寒気からか、より身体をぶるぶると子犬のように震わせた。
「蜜柑、食べないの?」
「んー……寒いよね」
外に出かける予定は既に中止の電話がかかっており、は部屋から出ようとはしない。
温かい茶を淹れてからというもの、彼ら二人はどちらも動くこともなくじっとこたつの中に待機し続けている。
喜助は茶を飲みながらの寒そうな姿に持っていた羽織を渡すと彼女は目をちょっとだけ丸くした。それからゆっくりと笑い、彼の羽織に袖を通してこたつの中に手を突っ込む。
「さむ、い」
「雪、こりゃ止まないなあ」
深々と雪は降り続ける。
は手を出して喜助の手を少しだけ触れた。の温度と喜助の温度差から、じんわりと交じり合っていく。
「喜助くん、手、冷たい」
「ちゃんは熱いぐらいだね」
ゆったりと、じんわりと、体温が溶け合っていく。寒気はもうなかった。は目を閉じると、空気で喜助もまた目を閉じるのを感じた。
窓の向こうで降り続ける雪は、外の音を吸い取って沈黙し続ける。
「帰りたくないなあ」
思わず呟いた彼女の言葉に、喜助の手が僅かにびくりと震えた。
片目だけがあけると視線が音を立ててぶつかり合う。よりもずっと年上の喜助の表情は、よりもずっと幼く思えた。
「ちゃん」
「……なんて」
冗談です。
ふっと手を離して笑ったに困惑しながら、小さな咳払いをした後に喜助は「そっか」と苦笑した。
……ほんの少しだけ、残念だったなんて、言えることもなく、じんわりと雪とともに心のなかに言葉が降り積もっていく。
*沙原様リクエスト