衣鉢を継ぐことはなく

「魁先生、どういうことですか」

持っていた刀を少しだけ鳴らして、泣きそうな声では言った。神妙な顔をしているものだからどこかおかしくて、平助は一歩、二歩と近づいていく。
彼の隣にいたのは勘定方の河合だ。両手を組み此方もまた、と同じく神妙な顔をしている。
平助からすれば何故彼らが此処までの表情をしているのか汲み取れなかったが、どうやら自分に対して言いたいことが山のようにあるらしい。は時折ぐ、と声にならない嗚咽を上げている。泣くのではないか、と思ったが其処は日の本の男子らしくぐっとこらえている。

「んー、どういうことって言われても」
「……あなたと、袂を分かつとは、思いもしませんでした」
君」
「はい、河合さん」

分かっています。分かっていますけれども。
何度も何度も頭を振って、やっと落ち着いたのかははあ、と重苦しい溜息を付いた。
寺を夕陽が橙に染め上げていく。自然と平助の髪も橙色に染まっていく。目の前にいると河合もまた、同じように。鴉が鳴く声がして子供の笑い声が随分と遠くから聞こえてきた。ああ、もう今日が終わる。

「ごめんな、
「……相談ぐらい、ちょっとはして欲しかったです」

長い付き合いなんですから。
魁先生、と呼び出したのはだ。飛び出していくから、「先駆け」ていくから、「魁」先生。そう広まっていく中でだんだんと人が増えていく新選組が楽しかった。戦いの中で自分の存在価値を見出すのも悪くはない。
けれど、途中で平助は足を止めて考えてみる。
どこへ向かうのか、振り返ってみれば道はもう無い。そばにいる人々も個々に分かれ道に立っていて、自分自身の答えを今求められているような気がした。
伊東の甘言に酔わされているのかもしれない。
けれども、平助にはもう答えが分からなかった。だから、仕方が無いのかもしれない。

――きっと、も自分と同じように、決めていたのだろう。だから自分とは違う場所に今、居るのだ。


「まぁ、今生の別れってわけでもねーしさ!」
「そうですね。でも」

自分はあなたと一戦を交えることは覚悟はしていますよ。
薄く笑ったに「やってみろよ」と笑えば彼はようやく、ゆるく笑った。
彼らを見送った後に、平助は一人佇む。鴉の鳴き声も、夕闇も、もうだんだんと暗闇に変わっていく。取り残されているような感覚は、だんだんと彼の心を蝕んで来る。
後退りすれば砂利が擦れる独特の音がする。どくん。どくん。
心音が妙に鳴り響いて――平助は目を閉じる。

決めたのだ。自分で。成り行きでも。

妙な汗が滴り落ちたが、彼は意思の強い瞳を取り戻す。こんなざまではや河合に格好がつかない。
薄く笑った後、砂利を強く踏みつけた。
小さく砂塵が舞う。砕かれた石を見ながら、平助はひっそりと夕闇の中自分のいるべき場所へ戻っていく。