とんだ笑い話だ、と思う。
少なからずお互いにそんな感情を抱いた憶えは一度足りともないし、今後もあるとは思えない。
は手元にある少し苦いカフェオレに口をつけながら、夏の太陽が盛る窓際の席を陣取り窓の向こうに目を向けていた。
「お前、人の話聞いてないだろ」
「……国見、聞いてた?」
「聞いてない」
「おい!」
クラスの違う同じ部活の知り合い二名に絡まれながら、あえて素知らぬふりをしたかったのには理由がある。
彼女は及川徹の告白現場に朝から遭遇してしまったからだ。
ああついていない。ただついていないとネガティブにならずには居られなかった。
岩泉は岩泉一の妹である。ゆえに、及川徹とは幼馴染に部類される。
一年生と三年生という微妙に付かず離れず、接点も皆無とは言い切れないほどの距離感に勘ぐられることも度々あったが、彼女は彼に対して「恋愛」というものは持ったこともない。持ちたいとも今のところ思っていない。及川徹の場合はどうだろうか。想像してみた。
「おれ実はちゃんのことが」…………想像してみたところ、鳥肌が立った。
やだ怖い。そのまま目を閉じて一気にちゅー、とストローから吸い込んでやる。
ああ、聞こえない聞こえない見えない見えない。何より薄ら寒い!
要するにありえない!
カフェオレのいつもより少しビターなそれは、彼女の心を潤してはくれない。
あの女生徒に見覚えは残念ながらなかった。というか、この学校の女生徒をあまりは知らない。兄の知り合いと、バレー部と、後はクラスメイト。
そのぐらいだ。空っぽになったカフェオレを机に置いて、金田一さぁ、とぼやくように彼に問いかけた。
「及川君って彼女作らないのかな」
お前何いってんの、という目で此方を見てくるので「何」と聞き返せばらっきょ頭はゲラゲラと笑って指を差してくる始末だ。イライラ感を隠しきれず思わず国見に目を向ければ相変わらず低燃費の表情でを見ている。
「お前が彼女みたいなもんだろ」
「は?ないわ」
何いってんの、はこちらのセリフである。
及川徹との関係は今までもこれからも友人であり幼馴染であり悪友である。
羅列してみたら恐ろしいくらいの腐れ縁で、しかも兄伝いの微妙な関係だが、付き合わされているし友人であることは変わらないので、今もこの関係を甘受している。
家に上がっては楽しみに冷凍庫に取って置いたスイカバーを食べられていたり、サンジェルマンのミルクパンを取られたりしているので怒りを露わにすることもしょっちゅうだ。
それを彼女とするのか。これを。これを彼女というのか。
首を傾げたに金田一は「お前学校で及川さんの彼女って誰だと思うって聞いてみろよ」と言い返してくるので、は真顔で「うちのキャプテンじゃないの」と実に冷静に言った。
理由を述べよと言われれば「バレー部の主将」であり、偶像崇拝のごとくチヤホヤされる及川徹の横で呆れながら友人として容赦無い言葉を投げることも出来る女子バレー部の主将。……ここまで羅列してみれば、それはもうお似合いというしかなかった。は金田一にそのまま告げてみると彼は「はぁ?」と言葉を返してくる。
「ちっげーよ!お前だろ!幼馴染で岩泉さんの妹で、って漫画かよ!」
「ないわー……そんなの同中の連中は皆知ってるじゃないの」
「ここは高校だっつの!」
「国見、どう思う」
「俺は聞いたこと無いけど、岩泉と及川さんの話とか」
「国見そこは同意しろ!」
噛みつかんばかりの金田一に「大体及川さんと岩泉って恋愛色ないじゃん」と冷め切った表情で国見は反論するのでは同意せずにはいられない。
「お前らもうほんとまとめてめんどくっせーよ!」
「金田一はうるさいよ」
「そうだよ、事件解いてろよ」
「じっちゃんの名にかけて」
「今ドラマやってるね」
聞 け よ !
そんな金田一の怒号が聞こえたのは少し後の話。
*君と恋がしたかった(ような気がしないでもないけど、今のままでも十分いいのだ)