「岩ちゃんてさ、モテないね」
アイスクリームを食べながら、まるで悪気なく言った友人に岩泉は露骨に顔を歪めた。及川徹といういわゆる幼馴染で相棒がいるせいか何かとネタにされるが、別に面倒見がいいわけでも何でもない。彼は自分の友人、というより腐れ縁であり、チームメイトだ。
という女は、そんな彼の主張を「ふうん」と一声でばっさり切り捨ててパピコの半分を彼に投げつけて、自分の分をひたすら食べている。
「あげる」
「半分溶けかかってるじゃねーか」
「だって二本も食べられないもん」
じゃあ何で買った、と彼は尋ねたがは「ダッツ、高いし」と意味の分からない主張を返している。
「大体なんでそんな話になったんだよ」
「ん、この前、岩ちゃんがカッコイーよね、ってクラスの子が言ってたから」
口でパピコのフタを開けた岩泉の手が止まる。あ?という疑問の声はあっさりと無視されては目を細め、まぁ及川くんファンだけどねえ、と気の抜けた言葉を誂えたのである。
「……ふうん」
「あ、でも、私も岩ちゃんカッコイーと思うよ」
気楽な返事を返したに思わずパピコを落としかけた。確実なまでの動揺に「うえ」と微妙な声まで出してしまった岩泉に、彼女は「バレー部、かっこいーよね。ガッツあるってすごい」と客観的極まりない意見を述べてみせたのである。
なんだそれ、と切り返せば「思ったことを言っただけなんだけど」と、まっすぐに返してくる。どういう意味か、なんて、聞かれなくてもわかるものではある。お前、俺のこと好きなわけ。そう聞きかけたが、イエスもノーも今は聞ける気がせず彼は不機嫌なまま親指で強く押し、パピコのコーヒー味で喉を潤した。
最後の一滴まで飲み干して、ゴミ箱に捨てると「岩ちゃん」と黄色い声に混じって及川の声がした。休憩はもう終わりだといいたいのだろう。彼はますます顔を渋くさせる。お前に言われる筋合いはないしお前のほうが大体遅れてるだろ!ツッコミは悲しいかな、体育館により遠い以上、届くこともない。
「岩ちゃん」
「あ?」
「――頑張ってね」
「……おー」
じゃあまたね。夏模様の青空を背に、彼女はひらりと手を振って笑っていた。そのまま振り返ることはなかったが、岩泉はふ、と、彼女の背に「気づけよばーか」となんだかわからない自分に対しての罵倒のようなものが見えて思わず意味もわからずに、そのまま及川の頭をべしん、と思い切り叩いてやった。
(2014.04.21)