a little..?

 丸藤亮にとって、デュエルアカデミアというのは一種の通過点でありプロになるのは入学した時から決めていたことだった。 他人に指図される覚えもないし、夢をかなえるために努力は惜しまない性格のため、自分なりに答えを常に見出してきた。
 今回も、例に漏れることなく日々を淡々と生きていく。 そんな亮を尊敬する人間は数知れない。 何人、何十人とも言える女生徒が彼に憧れ、常に丸藤亮は他者に注目される人物になっていた。
 それはプロになった現在でも変わることなく、そんな凄い相手と話が出来るという光栄な機会を常には恐縮していた。

「……?」

 カフェテリアで壁に寄りかかる体制で眠る見覚えのある顔に思わず亮は声をかけた。 返事は返ってこず、普段の彼女からでは想像もつかない。
 普段なら、至極驚いたように振り返って立ち上がるだろうに――眠っているためか、静かだ。
 一歩、また一歩近づいていき一メートルほどまでの距離になると亮はを覗き込んだ。 テーブルの上に置かれた海馬コーポレーションの社長が書いた本には沢山の書き込みがされているのが目に入る。
 自分相手の時以外は大分リラックスして話せているのに、なぜ自分に対してだけあのように畏まるのか――亮にはいまいち理解できなかった。 行方不明になっていた親友は彼女と少し話をしただけで直ぐに彼女と打ち解けられたものを――如何せん自分の方が関わりが深いにもかかわらず、いつまでも硬いままだ。
 苗字を読んだところで全く返答が無く、小さく動いたことに亮は一瞬ぎょっとするが、小さくたてる寝息に安堵した。 疲れているのだろう。 今年、彼女は此処を去る学年だ。
 ――彼女がどのような道を行こうと、今の自分には関係の無いことだ。 しかし、如何せん釈然としない。 その瞳が自分を見据えることは片手で数えられる程度しかなく、彼女は常に自分の後ろに居た。
 自分の後ろを戸惑うかのように距離を置いて、それでも離れない程度についてくる。
 ……何時からだろうか。 其れが気になったのは。 その目に自分が映らなくて、気に食わなくなったのは。
 テーブルに左手を置いて亮はもう一度、、との苗字を読んだ。 それでも矢張り彼女は動かなかった。 ちょっとした悪戯心がわいてくるのは、自然なことだ、と心の中で亮は言い聞かせる。

 偶然後ろを通りかかった二年生の後輩が何か言っていたが、一瞥すらくれてやらず、口端を釣り上げて亮は笑った。 耳元で彼女の名前を小さく呼ぶと、これでもかという勢いで彼女の目は開き立ち上がった。

「――――?! ま、まま丸藤先輩!?」
「どうした?」

 いくら多くのプロデュエリストを招いているとはいえ、突然の出現には絶句した。 いや、何よりも驚いたのは名前を呼ばれたことと同時に至近距離に亮がいたことだ。
 逃げようにも隣には壁、そして反対側には手をついて、自分をすっぽりと包むような体制で亮が居る。 逃げられないのだ。 心臓がガンガンとけたたましい音と鼓動を打ち鳴らす。

「あ、の、先輩っ……!」
「何だ?」
「ちちち、近いで……!」

 心臓に悪い行動を取る人だ、と内心は叫んだ。 が亮を前にして極度に畏まるのはそれだけ相手に対して憧れているからであり、緊張してしまうことからだ。
 それを亮は知らずにこうも近づいてくる。 唯の後輩なのに、とそんなことを踏まえるとまた、何とも言えず胸がしめつけられるのだ。
 そんな心境とは裏腹に亮は薄笑いをして其の場所から退こうとはせず寧ろずい、と顔を近づけた。 ヘルカイザーと呼ばれるようになってからのことであり、過去のカイザーと呼ばれた時代では決してしなかったことゆえに、動揺が走る。
 その近づいた整った顔には瞠目して頬を朱に染めた。

「せ、せ、せ先輩っ・・・!」
、視線を合わせろ」
「じゃじゃじゃ、じゃあ、離れてくださ……!」
「断る」

 ぐ、とこめられた力に熱が伝わってきて、肩に手を回されていることには今にも倒れそうだった。
 何故こんなことに現在なっているのだろうかとぐるぐるパニック状態になりながらも必死で思考回路をフルパワーで動かしているのだが、如何せん答えは出ない。
 やがて、触れるか触れないかぐらいの至近距離にまでなった時亮が耳にふ、と息を吹きかけた。 
 ゾゾゾゾゾゾ、と一気に鳥肌が立ち、硬く閉ざしていた瞳が若干の涙目になり、見上げる形では漸く亮を見た。
 ――その見上げた表情に満足したのか亮は笑って上出来だ、と言い上着を翻しコツ、コツと足音をたて去っていく。
 取り残されたは机の上に突っ伏すように倒れこむと大きく嘆息した。
 心臓が、相変わらず脈打つのが早い。 頬も熱を帯びているようだ。

「……し、心臓に悪い……!」

 耳にそっと手をかけてみると、まだ吐息がかかっているような錯覚を覚えて心臓を叩く音が加速する。
 ――考えないように、そっとは目を閉ざして、机に突っ伏して再び眠ろうとした。
 ……が当然眠れるわけもなく、溜息をつく。
 その一部始終を見ていた吹雪が「あーあ」と呟いたが、それはの耳に届くことはなかった。