静寂の休止符
「エミヤ」
えみや、しろう。
彼女はその名前を繰り返し、繰り返し呼んで見る。男の背中は遠く去りゆくばかりだ。不思議な青年。変わり者の青年。
やがて彼女は目を背け、自らの目の前にいる青年に語りかける。
「君、はどう思う?」
男は少しだけ、肩を落とした。
この電脳世界で、NPCとしてある男の姿に彼女は憧憬のようなものを抱いているのだろう。……プログラミングされた、過去の魔術師を。
「アーチャー」
私は戦いはそんなにうまく無い。
粛々という彼女の言葉は強がりでも弱音でも無く、ただ、真実であった。
戦いを始めた時点で待っているのは電脳死か、抜け出すか、それだけである。目的の為に人々は手段を選ばない。
本来ならば、彼女も、また。
「……頭痛い」
もう休め、と彼は彼女の肩に触れると、電子の世界であっても彼女は随分と細かった。
「、君は考えすぎる傾向にあるようだ」
「ええ、そのようね」
少しだけ、眠ります。そう言い残して、彼女は瞳を閉ざした。
異なる世界で同じ人物。英霊エミヤになる前の自分が気づかなかった、持っていなかったもの。
同じで違う、あくまでも可能性の一つである自分が見る並行世界の彼女は少しだけ、こちらの世界の方が強いようだ。
「だが、矢張り君はいつ何時も考え込むのだな」
相棒になったのはこれがはじめてだが、君のサーヴァントと言うのもなかなかに悪くはない。同じで異なる世界に生きるもう一人の、過去の自分。随分と昔に抱いた初恋と、それは少しだけ似ているような気がした。
……まさか、魂は同じ、初恋の相手がここにいるとは全く思いもしなかったが。
はアーチャーに背を預けたまま、静かに眠る。
緩やかな寝息は随分と優しいものだった。
2012.06.09