Gelatina di yogurt al limoncello

「アルカナ・ファミリアの騒動の種はいつもあなたね、リベルタ」
「俺だけじゃねえよ!ひっどいな」

ぶーたれながら脚をぶらぶらさせる。
リベルタは仕事休みにいつも大体此方にやって来ては笑顔でパンを購入していき、イートインスペースで熱いエスプレッソと一緒に頂いていく。アルカナ・ファミリアには食堂もあり、そちらで食事を摂る人間が大半だという。
ランチタイムを終えて漸く一息がついたときには彼は既に3つ目のチーズとレタス、それに卵が入ったパニーノを頬張っている。

「町中で噂になってるわよ、勇者リベルタの冒険譚」
「へへへ、そっかそっかぁ」

勇者リベルタの冒険譚。その言葉を知らない子供はいない。輪の中心で熱弁し、そのカットラスを時には抜いてまるで劇団のように一人芝居を繰り広げるリベルタは注目の的であるし、アルカナ・ファミリアを象徴する人物の1人として特に話題をさらっている。
はそんなリベルタの話に耳を傾けることが特に多い所謂一般人であり、彼とは少しばかり進展している仲でもある。……といっても、いかんせんレガーロ男の割に二の足を踏み続けているリベルタは鈍感としか言い様がないのだが。
以前よりリベルタはよくの店にやってくるようになったし、彼女とはデートらしきものを何度かしたこともある。だが、今ひとつ友人関係なのか恋愛への序章なのかには分からないでいた。リベルタのことは好きだが、恋愛対象として自分が見られているか否かは別問題である。けれど、直接聞き出す勇気もない。
向かい側の席に腰掛けて、少しばかり遅いランチと称して先程焼いてきたばかりのアンチョビクロワッサンを広げた。

「何、焼きたて?」
「そう」
「なんだよぉ、出来たなら俺も食べたい」

のとこのパンってレガーロ一、うめえもん。気の抜ける底抜けのない明るい声に、思わずは何度か目を瞬かせて、直ぐに素直な礼を述べる。彼はの思っている以上に物事に対して直感で発言をするらしい。
素直お礼を言っておいたほうが、彼もまた素直に返事を返す。彼らの関係は隠し事は余り似合わないようだ。
デザートにと今朝方作ったリモンチェッロヨーグルトゼリーを彼の分もは取り分けてやった。リモーネがよく取れるこの島では愛される料理の一つである。もちろん、彼もまたリモーネが好きだということも、は知っていた。

「朝に作っておいたの、食べるでしょ?」
「いるいる!」

スプーンを片手に嬉しそうに笑ったリベルタは子供そのものだが、はそんなリベルタの子供っぽいところが好きだし、見ていて安心する。アルカナ・ファミリアは島全土の安全と秩序を守っている。平穏な日々を送れるのは一方でファミリーの御陰でもあり、同時に彼らによってたち市民が制圧されているのも事実である。今のところ、ファミリーの中で島の人間に害を与えた人間にはそれ相応の制裁があるという話ではある。
だが、からしてみれば一抹の不安は残っている。

「?」
「……あ、ごめんね」
「いやっ! なんか悩みか?」
「んー、まぁ、ね」

歯切れの悪い返事を返しながら、もまたスプーンで自家製のリモンチェッロヨーグルトを食べ始める。よく煮詰められたヨーグルトにリモンチェッロの酸味がきいて、食後に適している。
フローズンヨーグルトとしてクラッシュさせ飲み物主体としてもきっと火照った状態の時に丁度いいだろう。
イートインスペースでの料理メニューとして頭の中で巡らせながら、はリベルタの視線を誤魔化すように窓に目を見やる。
青い空、白い町並みの中を時折歩いてくる特徴的な真っ黒のスーツに、思わず指がぴくり、と動いた。

?」
「えっ?」
「なんか変だぜ? 頭痛いとか、なんかあったのか」
「ううん、違う」

リベルタには何となく、は話したくはない。彼はアルカナ・ファミリアを大事にしていたし、彼の仲間たちを侮辱するようなことをは言葉にしたくないからだ。
一方で、時折芽生える恐怖心の拭い方も分からないでいる。
どうしたら良いのか分からず少しだけ渋い顔をしていると、リベルタは彼女の頭をこつん、と片手でこづいた。

「隠し事、へったくそだな」

彼はそう言うと照れ隠しのようにリモンチェッロヨーグルトゼリーを再び口に含んでいく。驚いたのはのほうで、何度も何度も瞬きをした後に、ふう、と小さなため息を零した。
彼女の考えている以上にリベルタという少年は聡い。人の心を読む術でも持ち合わせているのかもしれない。じゃらじゃらと手首に巻かれたブレスレットが音を立てるのを全く気にも止めず、彼はヨーグルトを食していくばかりだ。

「ねえ、リベルタ」
「んー?」
「ファミリー、好き?」

リベルタはSiともNoとも口にしなかった。少し考えた後に、はにかんで、分からない、と応える。その言葉に、は意味もわからなく「そう」とだけ返すことが精一杯だった。
もうじき昼休みも終わる。
はリベルタを観察しながら、ゆっくりと、思いの丈をかいつまんで話し始めた。

「アルカナ・ファミリアって、皆スーツでしょ? それに、皆で動いてる」
「んー、そうだな」
「それに、この島は半分くらいファミリーの力で支えてもらってる」

時々、それがとてつもなく怖いことなんじゃないかなあって。うまいこと言えず、くるくるとスプーンを回して、口に放り込んだ。喉をヨーグルトが通って、体の中を巡回し始める。瞳が自然とリベルタへと剥いて、はこぼれ落ちた言葉を気まずそうに拾い上げながら、でも、と付け加えた。

「リベルタのことは好きだから、解んなくなっちゃって」
「――おい、おいおいおい今なんかすげー言葉聞いた気がするぞ」
「うん、言った」

言葉は、思ったよりもすんなりと出た。それよりも恥ずかしいのはそれからのほうだ。はヨーグルトが入っていたガラスの器を重ね、リベルタのものと共々片付け始めるとリベルタはまるで魚のように何度も口を開けては閉ざし、開けては閉ざすという行動を繰り広げている。可愛いと、は少しだけ思う。

「あのな、、そういうのはその、男のほうが言うもんだろ!」
「そう?」
「そーだよ! 何の為にオレが来てると思ってんだよ!」

なんで?
の質問に今度はリベルタが固まった。まるで石のような硬直具合にが首を傾げる一方で食器を全て持ち上げるとリベルタは机に突っ伏す。喜怒哀楽、先程からお互いにころころ変わってばかりだ。

!」
「うん?」
「オレは、だから、オマエが笑ってれば、嬉しい!」
「えっ」
「そんだけ!」

ごっそさん。そう言い切ると彼は一目散に駈け出していってしまった。
カランカラン。
扉の音が鳴る。
はそこに立ち尽くしてはいたが、幸いにも食器を落とさずに済んでいて、やってきた雇い主に「顔が赤い」と指摘されるまで、彼女はただ呆けていた。言っている意味がわからないほど子供でもなく、かといってすんなりと飲み込めるほど大人でもない。先程まで考えていたそうだったらいいな、が目の前にぶら下がっている状況にただただ、は困惑した。

「えっ……えっ!?」

混乱して、作業が手につかない中で、は溜息をつきながら窓から見える坂道の多いレガーロに思いを馳せる。
小さな島の、些細な一日の出来事として話はまとまっていくだろう。だが、にとってみれば大きな事で――……明日も、彼はきっと朝六時半に此処に来てくれるのだろう。スコーパを持って、入口前を掃除している自分に、何事も無くチャオ、と笑ってくれるのだろう。

「……明日」

そう、決戦は、明日。どんな顔をして合えばいいのだろう。
そんなことへ思いを馳せていると、不思議なほどに通りすぎていくアルカナ・ファミリアの黒スーツをまとった男たちも気にならなかった。
天気はレガーロ晴れ。心地良い風が、南西から吹いてきている。次の日、彼らがぎくしゃくとしながら淡く甘ったるい笑顔を浮かべていたのでリベルタの兄貴分であるとあるアルカナ・ファミリアの諜報部員はニヤニヤとしながら彼を羽交い絞めする姿が見れたとか、見れなかったとか。

これはとある小さな島の、小さな恋のものがたり。


2012.11.16

2012年サイト1周年記念企画・恵菜様リクエスト「Che tempo fa oggi a Regalo? 」の続き

タイトル意:リモンチェッロヨーグルトゼリー