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dolcetto o scherzetto!

「ドルチェット・オ・スケルツェット!」
「今両手ふさがってるの見えない?」

若干キレ気味に言い放ったに、リベルタと並んで手を差し出していたパーチェは両手を上げた。
射殺さんばかりの殺気に怖気づかずにはいられない。
この時、の目は猛禽類のそれの輝きに、よく似ていたことから完全に油断していた二人は萎縮するはめになったのである。

ダンテの出港した船が現在消息を絶っておよそ3週間。彼の請け負っていた仕事をは引き継いでおり……幹部の仕事をパーチェが担う一方で、諜報部の全体への伝達は彼女が請け負っている。
そのため、港での検閲や貨物のチェック等をアルカナ・ファミリアの中でも請け負うことが多いの手元には紙面での要求が山積みだ。
仕事内容が幹部長の代行を行なっているパーチェの専門外であるため、諜報部はリベルタと一部を除いて手一杯に翻弄されている。

本来であればこの時期彼女はこの「レガーロ島」にはいない。海の彼方で仕事をしている予定がキャンセルになっている。今日はカーニヴァルだ。その手続で動かなければならない。

その一方で組織上の裏切り者の存在疑惑への対処。横領、イシス・レガーロで行われた不正行為。アンダーグラウンド内の問題は諜報部とアルカナ・ファミリアにおける暗部が目下行なっている。

諜報部は表に引きずり出す一方で暗部の行うことは読んで字の如くだ。は暗部について根深くは知らないが、ある程度長くいる以上耳にはしていた。
しかも、ダンテがいないのを見計らっての報告の嵐。何かあってもおかしくはなかった。

……よって、彼女のテーブルの上には正に山積みというに等しくハードカバー仕様の書物が4冊ほど積み上げられる高さで紙が積まれている。

「ダンテは」
「船自体の連絡はついたみたいだよ」

先日、その状況から漸く開放される吉報がきた。
ダンテの乗る船が見つかったのである。海が荒れたことから流され、随分と遠くまで行くはめになったというがダンテに問題はない、ということだ。
この時ばかりは、リベルタは神に感謝し祈っていたし、も一息ついた。

……その次の日がカーニヴァルということを、完全に忘れて。


さぁ、息詰まるぞー、判子とサインばっかで疲れるだろ」
「そーそー、リラ〜ックスしてさあ、息抜きしたほうがいいよ、机かじりっぱなしじゃん」

のんきに言い放つリベルタとパーチェに生返事をしながら引き出しの中に入っているガラスの瓶を引っ張りだすと、は羽ペンを置いた。
流石にずっと握り続けていたせいか、羽根ペンもそろそろ交換しなければならない程度にペン先が割れており、インクを浸しても悪化しているのは目に見えた。新しいペンを買いに行くには街に降りなければならないし、トリアーデの誰かに買い物を頼むか。そう思いながら瓶詰めになったキャンディをひとつだけ口に摘んだ後、彼ら二人の掌の上にザラザラと乗せていく。

「はい、お菓子」
ー、もうちょっとイベント楽しもうぜー」
「主催側なんだしさ、楽しむ側もこっちが眉間にシワ寄せてるの見るとしょんぼりしちゃうでしょー」

彼らの言っていることは最もだ。
しかし一方で、カーニヴァル中の問題はできるだけ取り除きたいという一心もある。
仕事用のデスクには紙は山積みであり、パーチェとリベルタが腰掛けるソファの前に置かれたテーブルには代わる代わるやってくる人間が置いていった菓子が積まれている。

「下の様子を二人は見てきた?」
「おう、ジェラートの限定が出てたぞ」
「ズッカのプディングとかさ、この時期ズッカが美味しいし毎年楽しみにしてたじゃん」

行こうよ行こうよ。
ジャック・オ・ランタンの格好をするリベルタと包帯を巻いたパーチェの格好は明らかに楽しみ切っている。そしてそのままの流れでも巻き込む気だ。
……彼女は顔を渋めながらもズッカのプディングという魅惑的な響きにそそられる。一方で、目下現在の問題になっている点を彼らに言えるわけもなく、放置するわけもなく顔を渋めるばかりだ。


、ほんとここ最近顔色良くないよ?」
「……そうでもないよ」
「ハァー? ばっかじゃネーノ?」

第三者の介入に、思わず彼らは手が止まった。
勢い良く顔を上げれば、両手に菓子を抱え持ち隻眼の目を随分楽しそうに歪めた上で彼はニタニタとやってくる。悪乗りしているデビトをよそ目に、は視線を書類に向けた。イシス・レガーロで行われた不正行為の報告書だ。のサインが行われた後に直ぐに彼の手に渡るものであり、恐らく彼はこれを取りに来たのだろう。
チェリーウッドの机に手を置くとの顔へ思い切り近づけて、デビトは薄く笑う。まるで彼女が不正行為を追いかけていることを知り尽くしているように。その手元に書類があるのを見抜いているように。実際その通りなので、彼女は近づけられた顔に思い切り書類を当てた。ぶ、と鈍い声が聞こえたがまあそこは無視をするとしよう。

「はい、例の。チェックしておいて」
「オマエホント、女っ気ねえな!」
「変装してカーニヴァルやるのなら適任がいるんだからそっちいけばいいじゃない」

私にタカってる時点で3人とも間違ってるのよ。
其々に菓子を与えて出口を指さすと、デビトがパーチェに目配せをしてやる。幼馴染の特権なのかやりたいことがあっさりとわかり―――パーチェは彼女の身体を思い切り持ち上げると一目散に走りだした。の悲鳴と、怒号と、かつリベルタに机の上に散乱した菓子類の整理を指摘するの器用さに舌を巻いたが、リベルタはそれを一蹴して無視した。

「いいじゃんいいじゃん、楽しもうぜ、30分だけ!なっ!」
「こー言うのはナァ、適材適所って言うのをオマエはもっと勉強しとけよナァ? ?」
「何よ向いてないって言いたいわけ?」
「向いてないも何も、オマエがそーんなカリカリしてやる案件じゃあねえだろ、こんなの」

鼻で笑ったデビトに、は顔をしかめる。何の話をしているのかわからないからか、リベルタとパーチェは顔を見合せている。最早抵抗は無意味であり、は渋々ではあるが彼らのカーニヴァルに付き合い、子どもたちに菓子を配りながら街を練り歩いた。
途中で恫喝を見かけ剣の所属している人間へしょっ引いたりだとか、喧嘩の仲裁を行ったりだとか、彼女が抱えている案件の鍵となる人物を見かけたりだとか――中々に収穫はあった模様で、終わる頃にはの手には菓子類と、黒革の手帖のメモが幾重にも書き込まれている。

「ホラナ? 見ネェと分からねえこともあるだろ、頭でっかち」
「……そうね」
「ほらほら、ズッカの他にもパタータ・ドルチェあるって!」
「お、モンブランもあるぜ!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ悪友や弟分を見つつも、デビトの言葉に僅かには頷いた。ほんの少しだけ、口元が緩んでいるのはカーニヴァルのせいだろう。


「……有難うね、声かけてくれて」
「ハッ、素直だと気持ちワリーんだよ、オマエは」
「やっぱり言うんじゃなかった」

ケーキにタルトにドルチェの数々を並べられながら、は笑ってみせた。
甘いドルチェと一緒に熱いエスプレッソを飲むなかで、デビトが薄く笑ったような気がしたが敢えてそれを気づかないふりをして、は彼ら3人に問いかける。

「ドルチェット・オ・スケルツェット!」
「Si!」

くるりとフォークを回してズッカのタルトをにつきだしたパーチェに「ばか」とは笑ってやる。リベルタは素直にの注文が何なのか察し、店員にオーダーをしてパタータ・ドルチェの土産用である焼き菓子を渡す。彼は自覚は無いかもしれないが、十分なほどにレガーロ男の素質を持っている。
スマートな行いを其々にする彼らに、は礼を言葉にする。
コーヒーと、甘いドルチェの香り。

ほんの少しだけ彼女の心はゆったりとその時間を楽しむように解されていく。

ダンテが帰ってきた時、こんなことがあったと話してやろう。
そう思いながらズッカのタルトを頬張った。


Happy Halloween!

ズッカ:かぼちゃ
パタータ・ドルチェ:さつまいも
ドルチェット・オ・スケルツェット:トリックオアトリート
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