不機嫌な王子様

王子様みたいだねえ。
の言葉に露骨に不機嫌なハァ?という声が出たのは大人気がなかったようにも思える。

「なにいってんの、お前」
「思ったままのことだよ、翼くん」

翼くんはうちの学校の札付きの悪い連中をまとめた上に顔がいいなんて凄いね、とは言う。彼女の理論はよくわからない。真面目なのか不真面目なのか大人しいんだかうるさいんだか。
ファンクラブなるものを作り出したという女生徒にウザイと一言返したことは波紋を呼ぶこともなかったらしい。
定期的に女生徒からの視線は感じるが、相変わらずサッカーとフットサルに明け暮れている日々だ。

翼くん。
見知らぬ人間に名前で呼ばれる気持ち悪さは相変わらずで、寒気すら覚えるものだ。だが、かく言うもまた俺のことを翼くん、と呼んでいる。

「告白されたんだって?」
「誰に」
「4組の岡辺さんに。男子がいってたよ」

漫画の話みたいに生きる人なんだね、翼くん。
気楽に言うはノートをパラパラめくっていた。大して興味もないらしい。
ない割に、ちょいちょい顔を覗かせるのは何故なのだろうか。

「それで、なんで王子様だよ」
「いやなに、オーラ?ジャニーズみたい」
「馬鹿にしてんのか、よーし、わかった」

そうじゃあないよ。は楽しそうに笑って(やはり悪意がありそうだ)いるので、むかついた。

「お前さ、なに、俺に気があったの。悪いけど俺言われないとわかんないし思わせぶりしてくるやつウザイと思うんだよね」
「あっごめんそれはないかも」

翼くん、彼氏にするならジャニーズの翼くんがいいなあ。
同じ名前の男をあっさり上げて、は適当な言葉をまた並べる。
何度も言うが、この女はよくわからない。他の女となにが違うのかもわからないし、どこにでもいるし「他とは違う」とは思えないようなやつだ。

「つまんないやつ」
「いいよ、私は楽しいから」

皮肉も、毒舌も、結局馬耳東風。
ついでに「ひどいなあ」というブーイングは起きる癖に次の日普通におはようと言ってくる理念もわからない。

「お前、王子様なんて夢見てんの」
「逆玉の輿みたいな?」
「逆じゃないだろ、別に」

国語力は相変わらず低いし。
クラスメイトに漫画のような人生だねと言い出しもするし。改めてという人間は、よくわからない。

「女子の友達いないの、
「いるよ。翼くんのファンの子たちが」
「……ファンて、馬鹿じゃないのそれ」
「そう?私も黒川君のファンだよ」

こいつ、しかもしれっと言うのだ。それは手伝えと言う暗喩か。まあ、じゃ無理でしょ、と笑っておくことにしてノートの名前を確認し彼女に手渡す。
だいたい、理科のノートなんか回収してもしょうもないのに、バカバカしいったらない。

「翼くんさ、マシンガントークって言うけど顔に出てるよね大体」
「は?」

なにいってんの、こいつ。呆れて物も言えないでいるとは顔に出てるよ、と指摘をまたひとつした。

「おまえさ」
「ん?」
「能天気で羨ましいよ」

文句を言えばは王子様にうらやまれるのも恐縮だなーなんてふにゃふにゃ気のない笑を浮かべていた。
ああ、くだらない。つまんないやつ。

でも、まあ、いいか。


7.30のお題「王子様」