授業移動中は周りをよく見ましょう

「アラジンはコドル6でどんなことをしたの?」
「基礎体力作りが多かったかなあ。うさぎ跳びとか、20キロ走ったりとか」
「なるほど。基礎をすべて上げてそれで勉強にいくんだ」

 アラジンの話を聞きながらコドル3で学んできたことを思い出し、は部屋の本棚に並べられた自分のノートを思い起こす。
 アラジンが彼女のノートを見るかと聞かれれば彼はどちらかというと感覚ですべてを掴む天才型なので理論のものは好かないだろう。
ただ、アラジンの言う「基礎」は最もで、それは彼女が此処にきた理由、目的を思いださせるのには十二分すぎるほどだった。ティトスは相変わらず何処かに出かけていないので、アラジンの感覚で語るルフについて、魔導について耳をすませる。

「おい、頭でっかち」

 だが、偶にスフィントスはのことを怒らせたいのか、「頭でっかち」という言葉を使う。事実彼女は机上の空論のようなものを口走るし魔法使いというよりも勉学としての面が強いのかもしれない。優等生、なんて茶化すこともあった。視線だけでスフィントスを見やれば彼はのテーブルの上に置かれた緑色の試験管を引っこ抜いて、少し振るった。鳥の形をしている小さなルフがくるくると旋回し、色を持ち、踊る。
の属性のものではない緑色のそれを視線で追うと、の代わりにアラジンが解説する。

「さっき先生が、さんが調べてること協力してあげるって渡してたんだよ」
「ははあ、ユートーセーはやることが違うな」
「実際優等生っていうのはティトスやアラジンみたいな人たちでしょ」
「ティトスはともかくアラジンがかぁ?」

 お前、目腐ってんじゃねえの。彼は笑ってアラジンの頬を思い切り引っ張る。同室の彼らのやり取りはいつものことなので、いつものようにアラジンはさらりと避けてに声をかける。さんは、と聞かれ、え、とだけ返す。

「あ?推薦もらってただろお前」
「まぁ……」

 授業外の講義をそれぞれが受けている中で、スフィントスは医療系である横では「学問」としてよりも「実践に使える魔法」についての研究所から声をかけられた。スフィントスの魔法もまた、実戦向けでは在るのだが生憎とには彼のような器用さを持ち合わせていない。加えてセンスも要求される魔法において回復医療とは逆の立場にある。
 そもそも、はスフィントスたちよりも時期として先輩に値するわけなのだが、ここマグノシュタットではどうやらそれは関係しないのだという。コドル1こそが正義、学力社会。

「でも、だからといってうまくいくわけじゃ」
「あー……もうなんかいいやそういうめんどくせーの」
「自分から聞いたくせに」
「お前の気持ちなんかどーでもいいし。俺」

 なんて腹の立つやつだ。む、と顔を顰めたの額を彼の相棒がするりと小突く。爬虫類独特の冷たさがある。は生き物に対して恐怖感はないが、とりあえず唐突のこと、イレギュラーなことに対しての「慣れ」というものはあまりない。思いがけない出来事に身を引けばケラケラとスフィントスは笑った。

「スフィントスにはもうレポート見せない」
「あ、てめ、座学はお前の専門だろ」
「私は実戦派だから、もう見せない」
「あーあーあーそういうこと言うのかコノヤロウ」

 忙しない彼らの早歩きの口論に、アラジンは少しだけ首を傾げた。
 ふたりともどこに向かっているのだろうか。

「次の授業、あっちだよね?」
「………………」
「頭でっかちのせいだから俺は悪くない俺は悪くない」
「うるさい馬鹿!」

 アラジンが手招く方向に競歩のように歩く二人の姿が後輩に目撃されて後日「あの二人は結局体力づくりをするぐらいに体力が有り余っている」と実に尾ひれの着いたうわさが広がることになる。


2013.07.15