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「何読んでるんだい、
「ティトス」

ぱらぱらと捲られるページにティトスは目を落とす。はティトスの問に「いつもの本」とだけ答えて同じように目を落とした。
の持っていた本は随分と古い書物なのか羊皮紙は随分と黄ばみ、止めてある糸はほつれているし、本の角は何度もページがめくられたことにより厚紙が少しばかり出てきてしまっている。ティトスはから三人分ほど離れたベンチの反対側に腰掛けて、己もまた紺に金文字の本を取り出した。

「へえ」

会話らしい会話はそのティトスの曖昧な返事で打ち切られてはいるが、もティトスも別段それを意識するわけでもなく、其々が其々に本を読始める。
いつも、大体そうだ。彼らは会話という会話は余りしていないが、どことなく一緒に居る。学友として勉学に励んでいるといえば言葉はいいが、実際のところコミュニケーションを行なっているとは世辞にも言えない。
だが、はその空気を嫌っては居なかったし、恐らく彼女の憶測ではティトスも同じ考えである。
時折柔らかい風が吹いて、二人の頬を撫でていく。騒がしい校内の中でも静かになれる場所はいくつかあるが、ティトスももどちらが呼んでいたわけではないが、知らずとして選ぶ場所が同じになる。

「そういえば、コドル2のクロードが君のことを好きだと言っていたよ」
「……そう」

クロードというのは先日コドル4から2に進んでいる生徒だ。最優秀生のアラジンやティトスには劣るものの名前が知られている。
にとっても「勤勉な風属性の生徒」として彼はとても好感を持っている。けれども、それを、恋愛か否かと言われると彼女は否と応えるだろう。
ぱらぱらとページを捲るにティトスは己の本に目を見やった。
次の瞬間、地面が少しばかり揺れた。
思いがけない出来事に彼女は顔を上げ、目があったティトスに眉をひそめる。


「あなたも、気骨が折れる人ね」
「君ほどでもないだろう」
「きっとそのうち、スフィントスかアラジンが呼びに来るでしょ?」

彼女は立ち上がると己の本をティトスの前に差し出した。
にこり、と笑うわけでもなくその少しばかり古びた書物に、ティトスは首を傾げる。


「気になってたみたいだから」
「……いいのかい?」
「どうぞ」

喧騒が強くなってきている。一方で、は特別必要な言葉を投げるわけでもなく、窓に目を向けている。ティトスはが渡してきた本を親指で擦った上で、ページを一枚ずつめくった。
彼らの空気は、扉一つを隔てて明らかに室外と異なっていた。

「ティトス!」
「……お呼び出し、来たわね」
「本当だ」

は扉の向こうからの来訪者を見た上で、ティトスに手をひらりと振った。いってらっしゃい、とでも言っているのだろう。彼は本を丁寧にしまった後に、やってきた青年に人のよい笑顔を浮かべて歩き出した。
扉が閉まる音がする。
耳を傾けながら、は小さく口元を緩ませた。クロードがどうだとかという話を聞いても心が微塵も動かない。ただ、奇妙なほどに彼女の心は冷静でいる。
目の前に置かれた3つほど離れたティトスの席には、彼が読んでいたのであろう、紺色に金の文字が書かれた本が置かれている。


「……人の本は持って行くくせに、自分の本を忘れていくの、どうなのかしら」

知識好奇心が疼くのか、彼女はティトスの読んでいた本をめくってみる。彼の好む本はが好む書籍とは全く異なっていた。けれど、知識好奇心はそそられる。
彼の好みを少しばかり触れたことが少しだけ嬉しくて、は陽だまりの中小さく笑みを浮かべた。


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