「桃」
膝を抱えていたの頭上からぼとぼとと音を立てて落としてきたジュダルに、は顔を歪めた。
彼女と彼の関係は最悪に等しく、大体は笑顔の裏側、水面下で喧嘩八割だ。何が嫌いかと聞かれれば特別これといった理由を彼女は生み出すことは出来ないが、ソリの合わない、嫌い。それだけでお互いに十分だと少なからずは考えている。
相性的なものなので仕方ない。
わかろうともしないし、わかってほしいとも思っていない。
…なので、この現状に難色を示さずにはいられない。
「なんで?」
「さあ」
「ねーなんでー」
「さーなー」
知らねえよ。バーカ。
ジュダルはいつもと変わらない表情で桃を頬張っている。の膝の上に堕ちた3つの桃に彼女は指で弾き、その桃を口に放り込む。桃の独特の甘さが口に広がって、掌が果汁でべったりと粘着するのを親指を舐める形で拭いとる。
「甘っ」
「毒入ってるかもしれねーのに、バカだなお前」
「毒入ってたら蕁麻疹出るからわかるし」
結局彼女は人在らざる存在なので、人を殺すための道具ではを殺すことは叶わない。
ジュダルはの反論を聞き流しながら桃を再び齧る。
甘い、甘い香り。
「……胸焼けしそ、うえ」
「なら寄越せ」
「やーだーね」
ぺろり、と彼女は桃を頬張っていく。
文句を言いながらも食べ続けるに何なんだと文句を言いながらもジュダルも強要せず己の桃をかじっていく。
おとなしく二人で並んでいる姿に何事かと驚いた紅玉が二度見、三度見したのは言うまでもない。
2012.12.09
ハジ様/マギ・ジュダル/ランプの魔人シリーズ・たまには優しいジュダル
空を飛ぶ簡易性について
「……」
「なあに、マスルール」
彼女の脚が気になるのか、マスルールとモルジアナはそちらに視線を注いでいる。
ここまで見ると、彼らはまるで歳の離れた兄弟であり、目元口元髪の色、並べてみると似ているところが各所ある。民族のものだからしょうがないのだろうが、見ていて少しばかりはそんな彼らを暖かく思う。
モルジアナは彼女の脚がランプに繋がっていることを不思議に思うが、彼女はランプの精霊……というよりランプの魔人なのでしょうがないのだと彼女は言う。
あっけらかんとした態度なので、それでいいのだろう。そう解釈した。ふよふよと浮いている彼女の脚から、不思議に思ったことをモルジアナは素直に言葉にすることにした。
「あの、それで空をとぶことって、できるんですか?」
「ええっそんなこと?」
そんなもの簡単すぎて!いくらでもどうぞ!
ぐるぐると彼女は空を舞、空から金粉をふりかけてくる。
その姿をマスルールは無表情でいつものことだからと無反応だったが、モルジアナは以外だったのか、へえ、と小さくつぶやいた。
「空、飛びたいの?」
「……いえ、そういうわけでは」
「絨毯くーん、来てきてー! 大急ぎー」
ぱんぱんと手を叩けば、生きているような絨毯が此方にやってきて、モルジアナとマスルールの前で止まる。恭しくは彼らを誘導すると、どこかのアトラクションの水先案内人のごとく、手を肩のあたりにあげてにこにこと笑っている。
「いってらっしゃーい」
ぐん、ぐん。
スピードをあげて、彼ら二人は空を舞う。そこから見える距離をモルジアナは感嘆の声をあげていたし、マスルールはマスルールで表情には出していないが、楽しんでいるのだろう。その姿を下からは見上げて、笑っている。
「いやぁ、いい仕事したなぁ」
それから、モルジアナがの絨毯のことを話したのか――……某魔導師がどういう基準で動いているのか興味を持って解明しようと毎日仕事上がりにやってきてはにせがむ姿が見れるようになった。