この国には自らの意志で見、聞き、動くジンがいるのだという。
アリババはその話を街中で聞き、目を爛々と輝かせてアラジンに話す。この世界に唯一無二の存在であるマギである少年はモルジアナが買ってきていたフルーツを食べていたところだった。
彼らは噂の「ジン」について調べ始めたのだが、実際のところジンというのは契約者がいなければ姿を現してくれることはないし、何より自らが主と認めた者にその「金属器」を授ける。彼らにとってのウーゴしかり、アモンしかり。彼らは彼らの中にあるそれぞれのジンに対するイメージを膨らませる。
……一方で、モルジアナはいつも通りの無表情を浮かべたままだ。
「は?ジンが見たい? お前自分のジンがいるだろ」
「違いますよ師匠!俺たちが見たいのはシンドリアに仕える自らの意思で動くジンです!」
「……ナニソノ超脚色が入ってるやつ」
シャルルカンは顔をひきつらせ、隣に偶々いたヤムライハに目くばせすると彼女もまた似たような表情を浮かべている。思い当たる節はないかと弟子たちにせがまれる。シャルルカンは頭の中で約一名、壮絶に騒がしい人物が思い当たらないわけでもなかった。というか、十中八九彼らの言う「自らの意志で判断できる自立したジン」というのは、のことを指す。
彼の脳裏に高笑いをして王宮を支配しようとしている悪役この上ない姿がよぎる。
……まるで違和感がなかったのが、怖い。
すぐに手を思い切り振って「やだ」と答えてやると弟子たちは声をそろえて「えー」だの「どうしてですかー!」だのあれやそれやと文句を言い始めている。
「そもそも、会ってどーすんだよ」
「もちろん、なあ、アラジン、モルジアナ!」
魔法を見せてもらうんだ。
意気揚々と語るアリババの頭を無言でシャルルカンは殴っておいた。くだらないことを言ってないで剣術を磨けと言い残し去ろうとするシャルルカンにヤムライハが苦く笑い珍しいことに彼の発言に同意する。
「そうねえ、まぁ、言ってることは最もなのよね」
「何がぁ」
暢気すぎる、この空気をぶち壊す聞きなれぬ声にアラジンとアリババは振り返る。モルジアナは自分の真横にいつの間にか立っていた見慣れぬ人とは異なる肌をした見るからに人ではない存在に視線だけを送っている。彼女が今目下自分たちが話題にしていたジンであることをアリババは瞬間的に認識していたし、アラジンもまた同様にわぁ、と声を上げた。
彼女はこの空間ではどこからどう見ても「異様」であった。
ふわふわと浮いている体。人の肌ではない色をした肌。、とシャルルカンとヤムライハは声をそろえた。
「ハァイ、何?」
「何、じゃねえよ何、じゃ」
「あの!」
声をかけてきたアリババに、ははぁい、とにこやかに笑顔を浮かべた。もちろん彼らは初対面であるが、アリババは商人時代に植えつけられたコミュニケーション力をフル回転させ、にこやかに彼女へ挨拶を交わす。一方ではアリババとアラジン、そしてモルジアナを見――やがて、にい、と人のいいとは言い難い笑顔を浮かべた。
挑発的な雰囲気を持つに身を構えながら、アリババが「ジンなんですか」と尋ねてみせる。は何度か瞬きをした後に両手を肩あたりに上げると、指先から光をばちばちと放ち、次にその両手を叩いてハートマークを作ってみせる。光は彼女の指と同じように動き、彼ら三人を捉えてきらきらと光った後に音もなく消滅した。
「ハァイ、シンドリアにその人ありと言われたジンとは私のこと!ごきげんよう弟子の皆さん、ごきげんよう!ごきげんよう!」
選挙カーのような形で手を振ってみせるに3人はぽかんとしたまま彼女のテンションに付き合わされる。一方でそれを見ていたシャルルカンとヤムライハは顔を見合わせた後に、お互いに頷きあい……そして、の首根っこをほぼ同時に掴んだ。
「お前遊びすぎ」
「ちぇ、珍しくファンに会えたのに」
「弟子に変なこと覚えさせないで頂戴」
「はーい」
じゃあねー。
ひらひらと3人に手を振ると白い煙を立てながらはあっという間に姿を消してしまった。飛び出すのもいなくなるのも唐突だったので、アラジンとアリババは顔を見合わせて凄い、だの面白い、だの彼女の放った魔法の数々をあれやこれやと上げていく。
「あれも、魔法なんですか?」
「……あれは魔法っていうか」
「……悪戯、のほうが正しいな」
だが、興奮する二人に対して、ヤムライハとシャルルカンは揃ってここにはいないジンに揃ってため息を付いてみせる。
彼らの騒々しい日常は、どうやらまだまだ続くらしい。
これはその、片鱗。
20121223/シマ様リクエスト「マギ・信号機トリオ/ランプの魔人シリーズ主、ほのぼの」