とある魔人の独白


自慢じゃないが私は占いが得意なわけではない。
、と呼ばれて現実に気付くと、目の前に仏頂面で腕を組んでいる主に少しばかり軽い口調で「すいませえん」と返事をした。
この主、ジャーファルは随分と物事に関して神経質な一面を持っている。胃潰瘍でそのうちぶっ倒れるのではないのだろうかと思っている。マスター、と普段は呼んでいるが、一方でだいたい私事で呼ばれるときに応じて「マスター」という呼び方と名前での呼び方を切り替えている。
それが第三者(主として彼の主であるシンドバット王)には面白いらしく、私事である時になぜか必ずと言っていいほど、このシンドバット王はいる。要するに、ジャーファルという男には、私的要素は全くないということだ。

「さっさと占いなさい。ジンなんだからできるんでしょうが」
「えー、できるけどー、私占いって得意じゃないんだけどー」

王様周辺に占いが得意なジンいるんじゃないの。
いつもよりけだるげに返事をすれば真面目にやりなさいと怒鳴られる。
自慢じゃないがこのシンドバット王と私はジャーファルを怒らせる天才な気がする。少なからず、よく私はジャーファルに怒られている。決してドMではないことを前記しておくけれど、私は彼に怒られるのが嫌いではない。シャルルカンに関して言えば「面倒見てもらったことがないからだろ、それ」とあきれて言っていたが、私は別にそんな心持でジャーファルに接しているつもりはない。
どちらかというと、見ていて楽しいからだ。
クールなふりをした暑苦しいタイプの男なのだと思う。心の中に何か一物常に抱えているのであろうことは、客観的に見ていてわかる。にこやかな穏やかそうな笑顔はうさん臭くてどうにも苦笑いしてしまうが、怒っている姿はある意味で素なのだということだ。こんなことを言ったなら最悪ランプの中にしばらく反省しているようにとか言い出し始めるので、絶対に何が何でも口にすることはないのだけれど。

「鏡よ鏡よーかーがみーさぁーん、そろそろご飯の時間だとー思うなー」
「真面目にやりなさい」
「はーい」

実のところ、ジンは未来予知ができるなんて勝手に思い込まれているがそんなわけがないのだ。
実質、私はこの世界のいうところのジンとは異なる存在であり、何より未来予知ができればランプになんて閉じこめられなかっただろうし、毎日が幸せなことこの上なかったし、さらに言えば過去に死んでいった主たちもきっと死ななかっただろう。ほかのこの世界のジンはどうかはわからないが、少なからず私はそうだ。
鏡をたたけば水面のようにぐにゃりとゆがむ。
その姿だけでジャーファルは少しだけ反応した。


「ねえ、マスター?」
「はい?」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦って言葉ご存じ?」

私の占い、当たらないことのほうが八割だからね。
付け加えていったにも関わらず、ジャーファルはいいからさっさとやれという。それにしたってこのジャーファルという男、いろいろな主に仕えてきた私から言わせればなんて身勝手な人なのだろう。
きっと、たぶん、主が死にそうになったら助けろということも目に見えている。シンドバット王がそんなことになるかどうかはわからないが、そうなったらこの男、一緒に死ぬつもりなのだろうか。あいにくと私にはわからないし、仮に彼が死んだところで契約は打ち切られ、私はまた主なしのランプの精に戻るだけのことだ。
別段、これといって困る…否、非常に困るのだが、千年単位で見ればそうそう困ることでもない。
だが。

の占いが当たろうと当たらなかろうとどうでもいいんですよ」

この、私のことを物珍しく「人」と「道具」とセットで扱おうとする、ふてぶてしいジャーファルが嫌いではない。むしろ好きだ。
口にしても無下に扱われるのは目に見えているので、少しばかりさみしいのが本音だが、私の主の中でもたぶん五本指には入るだろう。主のこと以外なら、冷静で周囲を見渡せる政務官だと思う。


「ねえマスター、そろそろお願い事を教えてはくれませんかね」
「ないです」
「……ジャーファルって私のこと嫌いでしょ」


おや、そう見えましたかね。
笑顔で言い放ったジャーファルに、シンドバット王がくつくつと笑っている。どうやら、私はこの空気が嫌いではないらしい。シンドリアという異界のこの国は、常にどんちゃん騒ぎでバカばっかりで、国の抗争も多い。一色触発とはよく言ったものだ。だが、そんな中で生きている彼らもまた、一陣の塵にすぎないのかもしれないが、同時に美しい。
占っていた鏡を右ストレートで叩き割って「教えるわけないでしょ、ざーんねーん!」と笑ってやった。

「あっはっは、そう来たか!」
「ちょっとシン、何笑ってるんですか!、降りてきやがれ!!」
「やーだーよー!」

願い事を言ってくれない主の言うことなんか聞いてやるもんか。
舌を出してぷいとそっぽを向けばいつも通りの怒号が聞こえてくる。
そうだこの関係がいい。この関係でいい。


だから、もう少しだけ、この関係が続いてくれればいい。

そうぼんやりと10mは下にいるであろう主たちを見ながら、思った。




魔法使いと弟子たち

この国には自らの意志で見、聞き、動くジンがいるのだという。
アリババはその話を街中で聞き、目を爛々と輝かせてアラジンに話す。この世界に唯一無二の存在であるマギである少年はモルジアナが買ってきていたフルーツを食べていたところだった。
彼らは噂の「ジン」について調べ始めたのだが、実際のところジンというのは契約者がいなければ姿を現してくれることはないし、何より自らが主と認めた者にその「金属器」を授ける。彼らにとってのウーゴしかり、アモンしかり。彼らは彼らの中にあるそれぞれのジンに対するイメージを膨らませる。
……一方で、モルジアナはいつも通りの無表情を浮かべたままだ。



「は?ジンが見たい? お前自分のジンがいるだろ」
「違いますよ師匠!俺たちが見たいのはシンドリアに仕える自らの意思で動くジンです!」
「……ナニソノ超脚色が入ってるやつ」

シャルルカンは顔をひきつらせ、隣に偶々いたヤムライハに目くばせすると彼女もまた似たような表情を浮かべている。思い当たる節はないかと弟子たちにせがまれる。シャルルカンは頭の中で約一名、壮絶に騒がしい人物が思い当たらないわけでもなかった。というか、十中八九彼らの言う「自らの意志で判断できる自立したジン」というのは、のことを指す。
彼の脳裏に高笑いをして王宮を支配しようとしている悪役この上ない姿がよぎる。
……まるで違和感がなかったのが、怖い。

すぐに手を思い切り振って「やだ」と答えてやると弟子たちは声をそろえて「えー」だの「どうしてですかー!」だのあれやそれやと文句を言い始めている。

「そもそも、会ってどーすんだよ」
「もちろん、なあ、アラジン、モルジアナ!」

魔法を見せてもらうんだ。
意気揚々と語るアリババの頭を無言でシャルルカンは殴っておいた。くだらないことを言ってないで剣術を磨けと言い残し去ろうとするシャルルカンにヤムライハが苦く笑い珍しいことに彼の発言に同意する。

「そうねえ、まぁ、言ってることは最もなのよね」
「何がぁ」

暢気すぎる、この空気をぶち壊す聞きなれぬ声にアラジンとアリババは振り返る。モルジアナは自分の真横にいつの間にか立っていた見慣れぬ人とは異なる肌をした見るからに人ではない存在に視線だけを送っている。彼女が今目下自分たちが話題にしていたジンであることをアリババは瞬間的に認識していたし、アラジンもまた同様にわぁ、と声を上げた。
彼女はこの空間ではどこからどう見ても「異様」であった。
ふわふわと浮いている体。人の肌ではない色をした肌。、とシャルルカンとヤムライハは声をそろえた。

「ハァイ、何?」
「何、じゃねえよ何、じゃ」
「あの!」

声をかけてきたアリババに、ははぁい、とにこやかに笑顔を浮かべた。もちろん彼らは初対面であるが、アリババは商人時代に植えつけられたコミュニケーション力をフル回転させ、にこやかに彼女へ挨拶を交わす。一方ではアリババとアラジン、そしてモルジアナを見――やがて、にい、と人のいいとは言い難い笑顔を浮かべた。
挑発的な雰囲気を持つに身を構えながら、アリババが「ジンなんですか」と尋ねてみせる。は何度か瞬きをした後に両手を肩あたりに上げると、指先から光をばちばちと放ち、次にその両手を叩いてハートマークを作ってみせる。光は彼女の指と同じように動き、彼ら三人を捉えてきらきらと光った後に音もなく消滅した。

「ハァイ、シンドリアにその人ありと言われたジンとは私のこと!ごきげんよう弟子の皆さん、ごきげんよう!ごきげんよう!」

選挙カーのような形で手を振ってみせるに3人はぽかんとしたまま彼女のテンションに付き合わされる。一方でそれを見ていたシャルルカンとヤムライハは顔を見合わせた後に、お互いに頷きあい……そして、の首根っこをほぼ同時に掴んだ。

「お前遊びすぎ」
「ちぇ、珍しくファンに会えたのに」
「弟子に変なこと覚えさせないで頂戴」
「はーい」

じゃあねー。
ひらひらと3人に手を振ると白い煙を立てながらはあっという間に姿を消してしまった。飛び出すのもいなくなるのも唐突だったので、アラジンとアリババは顔を見合わせて凄い、だの面白い、だの彼女の放った魔法の数々をあれやこれやと上げていく。

「あれも、魔法なんですか?」
「……あれは魔法っていうか」
「……悪戯、のほうが正しいな」

だが、興奮する二人に対して、ヤムライハとシャルルカンは揃ってここにはいないジンに揃ってため息を付いてみせる。
彼らの騒々しい日常は、どうやらまだまだ続くらしい。
これはその、片鱗。


20121223/シマ様リクエスト「マギ・信号機トリオ/ランプの魔人シリーズ主、ほのぼの」