カレー試食会
海軍ではカレーを毎週金曜日作る、という。当然軍人である家でも金曜日はライスカレーを振舞われている。
女学校で料理の講義を受けたことのあるは話を聞いて唖然とした。
毎週ライスカレーであることに対しての反発心はない。彼女自身ライスカレーは好きである。味を変え具材を変え幾らでも種類を変更することは出来る。
だが、彼女の言いたいところはそこではない。
博の悄気た姿に話を聞けば、手榴弾の形状に似せた檸檬を投入した、という話だ。
「調理場で遊んだら、そうなるでしょ」
「だから食べたってばぁ……ああ、酸っぱかった」
「それで、それを、私が食べるの?」
目の前に置かれた香しい香りを放つ独特の黄と茶の汁物に、兄弟一同の視線。彼らの一点を見据える先にが座っている。彼らの要求は一目瞭然だ。
「ちゃんなら、作ったことも食べたこともあるわけでしょ? 是非感想聞きたいなあって」
「……最初から失敗作ってわかってるのに食べさせるの、どうなの」
「いいから食さぬか!」
「何よ身の危険を感じてるんだから食べるのためらうに決まってるでしょ!」
は憤慨し、勇は煮え切らぬ彼女の発言に反論を返す。だが、は意を決すると銀のスプーンを手にとって、両手を合わせ「いただきます」と小さくつぶやくと、白米とカレーを掬い取り、口の中に放り込んだ。
ごくり、と喉がなる一同に対して、は少しばかり首をかしげた。おかしい。素直に味を楽しめる。
「……どう?」
「………あんまり檸檬の味、しない。あ、でも酸っぱい。……?美味しいけど」
「よし! 流石料理長!」
博の喜ぶ声と、一方で安堵した姿を見せる正の姿に、何事か分からずは勇を見たが、そもそも彼に食のことを聞くこと自体が間違っているので直ぐに視線を離し――この中で恐らくは料理に最も詳しい人材、守と雅へ視線を向ける。守は神妙な顔をしてライスカレーを見つめていたし、雅にいたってはを馬鹿にするようにして笑っている。
「何だったの、一体」
「僕達が作ったカレーを料理長がもとに作りなおしたわけ。でも檸檬はいってるし、人参はいってるし、元があれなのに食べれるわけないでしょ。だから、毒見係に選ばれたのがお前」
「なんだ、作ったものじゃないの」
「そう、ビビっちゃってバカみたい」
良かった、それじゃなくて。
雅の言葉なんて歯牙にもかけず、は重々しいため息を付いた後、水の入ったコップを煽る。彼の文句をいう声が聞こえてきたが、敢えて無視しておくとしよう。
その横で、彼らは己が作った料理がこうも代わることに喜びの声を上げ、ああだこうだと言い合っている。
「食べれば、雅も」
「食べないなんて言ってないでしょ!」
ああでもない、こうでもない。
騒がしい中で、おかわりの声に追われながら、今日は宮ノ杜洋食店に駆り出された千富やたえやはるに言われた通り食事を摂る彼らを、はやんわりと見つめた。あっという間に皿は空になり、鍋の中にあったカレーと白米はなくなった。
最後は、偶然にも全員が揃って手をあわせて同じ言葉を放つ。
「ごちそうさま」
とある、昼食の風景。
2012.11.06