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呼び方。

は持っていたペンケースを投げ出して、縁側に行くとそのままごろりと横になった。考えることにちょうど飽いていたところだったので丁度いい。現実から目を背け、目を閉じると日差しの穏やかさに自然と意識がふつ、と途切れるのを感じ取る。駄目だ、ちょっとだけ。ちょっとだけ。繰り返すようにうつらうつらとした意識の中、彼女は夢の中へと堕ちていく。

その夢は一瞬で解き放たれ、少しばかり派手な音で一気に彼女は目覚めた。

「ごめん、起こしたか」
「……衛宮君?」

おたまを拾う衛宮士郎の姿がぼんやりとの目に映る。気づけばひざ掛けが足元にかかっていた。どうやら彼がかけてくれたのだろう。散乱していたペンケースの中身は綺麗に整って、机の上に置かれた紙もまとめられている。その状況を把握して、もう一度は士郎を見やる。彼は何か料理をしているようだった。

「おかえり」
「……ただいま。は進路調査票出したのか?」
「あー……」

思い出したくもない現実をつきつけられては悲嘆にくれる声を上げもう一度フローリングへごつんと頭をあてた。
がこの世界に来てから暫く経過した。この世界には彼女の出身地はないのだという。八十稲羽高校の制服と、彼女自身がその存在があったことの証人みたいなものだ。学校へ通学する傍らバイトに明け暮れている日々を充実しているかと言われればそこそこなのだが、彼女の前に突きつけられた進路という二文字はひたすら彼女の頭を抱えるのには十二分過ぎた。

「大学っていってもさ」
「え、大学行くのか?」
「……学費がなー……」

藤村組の口添えで身分証明をどうにか出来たが、大学はそうもいかないだろう。という人間は実際は存在しない。漸く手に入れた保険証も誰のものかはわからないものをよくも出来たものだ、としみじみ思う。勿論そのことに関しては衛宮士郎ならびに遠坂凛間桐桜あたりは知っているのだが。……だが、そんな日現実的なものを話していいものかどうか常々彼女は困惑する。少なからず自分が異世界人と出逢った時どんな反応を返すかと聞かれれば■■に対しての反応に近かっただろうし、彼はあっけらかんとしていたが彼と同居していた■■■■も随分困惑していたものだ。

「衛宮くんは?」
「そうだな、正義の味方とか」
「……正義のヒーロー助けて」
「こればっかは自分で決めないとなあ」

にこにこと笑顔で言う衛宮士郎には這いずるようにして机の前にいくとそのまま進路調査票を睨みつけた。


はこの世界で生きるのか戻るのかどうしたいんだ?」
「……うーん」


自分が生まれた意味を知っている。
いつだって闇は自分自身の中にあるもので、その自分の鏡にすぎなかったシャドウたる自分。オリジナルと乖離された今、もはや彼女は鏡とはいえないであろうし、のオリジナルと結びは付かないだろう。つまり、彼女は元の世界に戻っても戻らなくても、いてはならない存在になってしまっているのだ。そんな状況を語りながらはぼやき、ため息を付いた。


「魔術師って、大変?」
「大変?って聞かれても俺の場合はちょっと違うらしいからな」
「ならバゼットか凛に聞くのが妥当なのかなあ」

彼女は人ではない。人と同じ構成をしているがコピーではいでたものに過ぎない。
英霊かと聞かれれば答えはノーだ。彼女は御大層なものでもない。それはオリジナルのを知っているからこそ余計に思うことだ。
……だが、が悩む横で士郎はそのままでも別にいいのでは、と少しばかり思う。彼女の心理は計り知れないが、オリジナルだと彼女がいうここにいると異なるを彼は知らない。それはきっと、自分とアーチャーの関係より面倒な関係なのだろう。


「んー」
「制服、結局作るのやめたのか?」
「だって後一年だし、ジャージで過ごせばいいかなって」

だめに決まっているようなことを口走るのは彼女の性質みたいなもので、それに対して衛宮士郎は大体「なんでさ」と苦笑とツッコミが交じり合った言葉を放つ。彼らしいといえば彼らしかった。
彼はもうすぐイギリスに旅立つのだという。どういう意図でイギリスに行くのかは知らないが(曰く、魔術師のためだというが全くを持ってには理解しえなかった。)彼と残された時間は早々ないということがほんの少し寂しい。イギリスには先に遠坂凛もいっていて今は一時帰宅中だともいう。ちなみに、そんな彼ら二人がイギリスに行くことを知った時には「逃避行?」と尋ねたが、その際間桐桜のオーラが黒くなっていくので、以降口をつぐむようにしている。偶に彼女は自分の思ったことを口走る、全くを持って裏がない……というよりも彼女自身が裏なので、仕方ないのだが、そういった部分が嫌になる。だが、それもまた自分なのであり、そういうひた隠しにしてきた部分があったからこそ今の自分が構成するきっかけに至っている。

ブランケットを三つ折にすると「折り方が違うだろ」と衛宮士郎は指摘し、の隣に座った。

「そういえばさあ」
「なんだよ?」
「なんで凛は衛宮士郎を衛宮くんと士郎で分けてるのかな」
「えっ」

 あまりに唐突な問だったので、彼はワンテンポ遅れた。え、と飛び出した言葉にたいし、は「え」と問い返す。
 ぶつかった視線を慌てて漂わせて、困ったように「あー」と衛宮士郎は呟く。

「……いろいろあって」
「うん」
「…………まぁ、いろいろあったんだよ」
「教えてくれないの?!」

 ひどいなーひどいんだー。
 ぶーぶーと文句をいうをうまいこと交わしながら、士郎は「エミヤシロウ」との奇妙な関係上から士郎と衛宮と公私を分けている魔法の師である凛の怒った声を思い出し少しだけため息を付いた。


2013.08.25 WEB拍手ログより
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