夢を見た。この世界ではない何処かで自分が動く夢だ。何が面白いって、私はそれを上から見ているのだ。つまり、動いているのは別の私である。
これは夢だ、と思った。夢のなかに二人の私がいる。ひとりは見知らぬ場所でトチ狂ったように笑い、見るからに怖そうな男たちと談笑し、戦い、時々女の子にちょっかいを出している普段の私とは違う私。そしてそれを見つめているいつもの私。
そんな話を、久方ぶりに此方に帰ってきた友人・鳴上悠に話すと何とも言えない顔をされた。ジュネスのいつものフードコートに並び、女子達が買い物をして花村がバイトに戻っている。いつもの日常の光景。完二はもうすぐ来るらしいのでいつも通りだ。いたって、いつも通り。だがそれが、不可思議なほどに、不自然で、鳴上くんに問えば彼はジュースを口に含んでそのまま沈黙。
「……ちょっと、そこで黙られると立つ瀬ないんだけど」
「…………言ってもが信じるかどうか」
「信じるよ、信じますよ、ええ」
「…………どうするかなぁ」
皆鳴上くんのことを番長だ、何だ、責任感があって優しくて頭が良くてといろいろ言うが、友人として言えば彼は結構意地が悪い。けちんぼ、と言えば死語だそれと返してくるような人だ。文句を言いながらフードコートで一番高いビフテキでも頼んでやろうかと画策する。が、残念なことに腹は満腹感でいっぱいだ。到底食べれそうな気がしない。
、と鳴上くんが私を呼ぶ。なに、と私が返す。少し前ならよくある日常で、だがこれは今となっては特殊な出来事だ。
「……ああ、駄目だ」
「ええ、そこまで言いかけておいて?!」
「自分で説明しようと思っても思いの外難しかった」
「えー……」
そりゃないよ。文句を言えば鳴上くんが笑った。いつか話す、と。つまり鳴上くんは私が見る変な夢に対して何か知っているということだ。教えてくれないのは鳴上くんの伝達スキルが低いからなわけで。……と、自分で考えてそれはないなと思い切り自分で否定する。
「でも、多分、にとってはいいことだと俺は思うけど」
「何が?夢が?」
「そう。夢が」
どこで、何をしてるのかは知らないけど。鳴上くんはよくわからない事を言う。彼の言葉に曖昧に頷けば、鳴上くんは満足そうに笑った。彼が言う「いいことだと思う」というのは、私なのか、私を通した別のものかは分からないのだが、まぁ、いいか。と結論づけた。
それよりも、だ。
「……なんていうか、戻ってきて早々、お疲れ様」
テレビの中に再び入る日がやってくるとは思わなかったよ、としみじみと話せば鳴上くんは苦笑してみせる。マヨナカアリーナ。稀有な出来事だった。
だが、同時に自分を見つめなおすいい機会だったのかもしれない。
「も、よく頑張ったな」
「やめてよー子供扱いじゃんその言い方」
「じゃあハイタッチはなしにしとく?」
「します」
ぺちん、と音を立てて重ねたその手は暖かった。おかえり、先生。まるでクマのような言い方をすればただいま、と彼はよく笑い返してくれる。……そのタイミングとほぼ同時に、皆が集まってきた。その日常が、何となしに―――とても、穏やかに感じて。鳴上くんおかえりおかえりと彼の頭をわしわしと撫でれば何故か花村に「小学生か!」と怒られる始末になってしまったのである。
「ちがうよハイタッチしたし高校生だし」
「……時々ってびっくりするぐらい、残念だな」
「がっかり王子に言われたくはない、そこ大事な所」
赤線引きたくなるね。まるで受験生のような物言いに現実怖い、と嘆いた花村がいたが、あえて私は無視をした。だって、受験生だし。現実だし。
「悲しいけどこれって受験戦争なのよね」
「……なんかそのフレーズ聞き覚え在る」
「わかんない、今思いついた」
千枝ちゃんが笑ったので、笑い返してやった。花村が無視すんなゴルァといっているが、ここもあえて触れないのが優しさなのかもしれない。鳴上くんにいうことは相変わらず難しかったけれど。とりあえずは、「祝・先輩お帰りパーティ」なるものを皆でやることになったからそちらを盛大に楽しめればいいなあと思う。
夢のなかのさん。ということで、そちらの世界は、どうぞよろしく。以上!