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Take me home

例えば現状にて衛宮士郎と恋愛関係になれと言われると、は驚き、そして同時に困惑する。当たり前の反応だ。衛宮士郎は常に女性陣にいじられキャラとして定着して、愛されていたし、何よりにとっては彼自身よりも彼の形があることで成り立っているアヴェンジャーとのやり取りのほうが多いのだから。

「いや、俺はさ、が偶に帰りたいんじゃないのかな、って思う時があるんだ」
「……ぜーんぜん」
「でも、向こうには家族もいるんだろう?」
「それは『私の』じゃないもん」

何処にいたって、家族は家族だと思うぞ。
茶を出してきた衛宮士郎には肩をすくめて返事だけを返す。彼はお人好しだ。のことにも親身になって物事を考えてくれる。決して悪い人間ではないだろう。正義の味方になりたい、なんて言っているあたりがそれを如実に表しているとにとってみれば思うわけなのだが。

「それとどうして恋愛になるの?」
「恋愛っていうか、なんていうか」
「だって『俺を家族だと思っていいから』ってそれプロポーズ以外に何なの?」

この言葉が衛宮士郎によって紡がれた数分前。
漏れなくそれまで穏やかだった空気は一変し、は言葉を失っていた。幸いにしろ、ここに彼に気持ちを寄せる遠坂凛の姿やセイバーや間桐桜の姿はない。にとっては不幸中の幸いだ。
衛宮士郎とは天然だ。人を引きつける能力にも秀でている。お人好しで、周りの人間に頼られている。……そういった人間をは1人ほど、知っていたので衛宮士郎を通して時に彼を思い出す。そういえば、あの青年は今どうしているのだろう。

「……?なんか、顔色良くないぞ」
「大丈夫、ごめん、なんでもない」

そのことを云えばきっと衛宮士郎は「やはり恋しいんじゃないのか」と言うのだろう。そうではないのだ。彼女は茶の口を少しばかり手でなぞりながら視線を落とす。四肢は思ったように動く。呼吸をしては肺に入り込まれる新鮮な空気に目がチカチカする。ここは彼女しか知らない場所、彼女だけが経験する空間なのだ。

「部屋はあいてるのは知ってる。おじゃましてるし」
「そうだな、じゃあ、俺達はもう家族じゃないか」
「ペット扱い?」
「違うって!」

はなんかこう、ほっとけないから。視線で訴える士郎には同じように視線で「違う場所の人だからか」と尋ねてみる。
だが衛宮士郎はため息を付いて、彼女の手をぎゅう、と両手で握りしめた。


「そうじゃなくて、が帰ってこれる家になったらいいって思うんだ」
「……衛宮くん、それを人はプロポーズって言うんだと思う」
「だから違うって!」

は小さく笑って彼の手をぶんぶんと振る。実際のところにとってこの家は平和と日常の象徴だ。ここに帰ってくると一息ついて、「おかえり」と笑顔を浮かべる士郎に、凛に、桜に、セイバーに安堵する。たまにアーチャーが無言で立っていたり、ランサーがいたり、バゼットが居たり。
……それを幸せと呼ぶのであれば、その幸せの中心地には衛宮士郎が居る。彼は透明な色を持っていて、同時にやわらかな光の持ち主である、とは認識する。

「幸せにしてね、士郎くん」
「……遊んでるだろ」
「ばれた?」

いたずらっ子のように笑ったの頭を士郎は少しばかり小突いてやる。
不可思議なほどに穏やかで、静かな日。

「衛宮くんって幸せの象徴っぽいよね。四つ葉のクローバー的な」
「なんだそりゃ」
「んー、幸せ色?してるっていうか」

曖昧な発言ばかりを繰り返すに士郎は少しだけ首を傾げてみせる。彼女はでは幸せなのか。一緒にいて楽しいか。聞いてみれば当たり前だと随分あっけらかんと笑って彼女は返してくる。不思議な少女だが、嫌いじゃない。というか、がいることもまた、士郎にとっての日常に変わりつつ在る。そうやって、日々は少しずつ進んでいく。
人でないにとって帰るべき場所はここであればいい。彼女が帰る場所がないのだというのであれば、ここが帰る場所であれば良い。



「うん?」
「……俺さ、が無理してるのあんま見たくない」
「それ、全部私の台詞」

お互い様ってことだよ。ラーメンの丼を出すために席をたった彼女が背中を向けたまま語る。そういうものなのだろうか。何か少し違う気もするが。
視線で訴えれば彼女は手だけをぶんぶん士郎へと向けてくる。そういうもんだ、と主張しているようだった。


「持ちつ、持たれつってやつ。ところで士郎くん、ご飯はラーメンだと私が幸せ」
「やっすい幸せだなあ」

笑った士郎に、にっこりともまた、笑い直してやった。
ここは彼の、彼女の幸せのある場所。

2013.01.11
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